第6話 彼と彼女と彼と彼女と 7-6
かくして、ムサシとケンタとミカとサホとは青春の真っただ中にいる。
窓の外はといえば、そろそろ日が陰りかかっていて、教室の中を爽やかな風がさっそうと通り抜けると、少しばかり赤らんだ光のかけらがきらきらと至る所できらめいているようだった。風はムサシの坊主頭を撫で、ケンタの制服の襟を少しばかり揺らし、ミカの三つ編みの髪にそっと触れると、サホのポニーテールに当たって床に舞い降り、そのまま廊下へと出て行った。どこかの窓からまた外へと放たれるのであろう。四人は四人とも放心状態となっていて、風の入ってきた窓からゆっくりと沈みゆく太陽をじっと見つめていた。もうどれくらい時間が経ったのかもわからなかった。思いっきり泣きたいような気もすれば、腹の底から笑いたいような気もしていた。もう何が何だかわからない心境だった。これが四人の青春だった。
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「やあ、久しぶり」
「お、何年振りだろうな」
「去年も会ったろう」
「そうかしら」
「そうだったね」
「おい、誰かビール注文しろよ、とりあえずビールだろ」
「そういや、例の四人組は今日はみんな欠席なんだって?」
「そうなんだよ。あの連中、ちょっと見たかったな」
「そうだね。惜しいことをしたよ」
「どうしたの?」
「生徒会長のサホは、長女が急な熱で来られなくなったって。残念がってたよ」
「え、サホって結婚してるの?」
「どう答えていいのかな。シングルマザーで四人の子持ちよ。しかも二人は双子」
「え、なんだって????」
「あのサホが???」
「知らなかったのか? あまり詳しい事情はアレだけど、例の性格で起業して一部上場していまや堂々女社長だぜ。旦那とは別れちゃったようだけど」
「マジか、オレ、転職しよっかな」
「たっぷり鍛えられるぞ。オレ、知らねーぞ」
「あ、わたしは焼き鳥がいいな」
「あたしは枝豆が欲しいな」
「あ、でも、サホは、今じゃ、心も体もすっかり丸くなっちゃって、相撲取りがニコニコ菩薩になったみたいだってよ」
「なんじゃ、そりゃ」
「でも、いっつも子供の話ばかりして、幸せそうよ」
「そいつあ、よかったな」
「よかったな」
「卒業してからもう十年だもんな。いろいろあるよな」
「ミカはどうしちゃったの?」
「そうよ、ミカは?」
「ミカちゃんはあっちゃんと結婚したって」
「誰だい、あっちゃんて」
「同性婚か」
「いや、あっちゃんってのは、ケンタの弟のあだ名」
「なんだそりゃ」
「なんだそりゃ」
「なんだそりゃ」
「そんなに変なあだ名か? 男でもあっちゃんって言ったりするだろ」
「そこじゃない」
「そこじゃない」
「そこじゃない」
「オレ、ビールお代わり」
「いや、オレも事情はよくわかんないんだけど、サホはどっかでケンタの弟と知り合って仲良くなったって。姉さん女房になって、弟の面倒をよく見てくれるから、助かるよってケンタがラインで感謝してた。今日はサホの親戚の結婚式で、どうしてもこっちには来られないって。残念だけど」
「姉さん女房ってか、かかあ天下だろ」
「かかあ天下だろ」
「否めない」
「否めない」
「右に同じ」
「ビール追加で」
「あたしはワインがいいな」
「しっかし、世の中って、どこでどうなるのかわからんもんだな」
「ってか、ケンタっていつの間にラインやってたんだ?」
「それな」
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