セロシア
原多岐人
中年から高齢女性は何故ガーデニングにハマるのか。鉢植えを買ってきては玄関前に並べ、それが長方形のプランターに進化して、さらに今度は庭に区画を分けて種もしくは苗を植える流れになる。そんな光景がありありと想像出来た。
私の母親も例に漏れずそんな女性達の1人だった。別に植物を育てるのはいい。無趣味よりかは認知症防止とかになりそうだし、色々な種類の花を見られるのは私も嫌では無い。問題は、うちの母にはカラーコーディネートのセンスが無い事だ。目がチカチカするほどに色を散りばめた箇所があるかと思えば、緑だけの部分もある。要するにバランスが悪い。私も人のことを言えるほどセンスが良いわけではないけれど、気にはなる。一度配置を少しだけいじってみたら、母は何も言わなかった。しかし、次の日の朝にはまた寸分違わず元の位置に戻っていた。その時点で私はもう就職して実家を出ていたので、それ以上口出しすることはしなかった。家に長くいるのは母だし、私もそこまでこだわりがある訳ではないので、好きにやってもらうことにした。
前回帰省したのは1年前だった。お盆も正月もGWも混雑するので、5月の最後の週末を選んだ。まあ良いシーズンであることには変わりないので、そこそこ電車内は混雑していた。地方都市というか、完全に過疎地の無人駅に挟まれたかろうじて有人駅が私の実家の最寄駅だ。こちらに近付くにつれて、ビルが減り、民家が減り、最終的には緑しか見えなくなる。信じられないことに携帯も一部区間で圏外だ。電車内のアナウンスで景勝地の紹介がされるが、そこに視線を向ける人達はあまりいない。無理もない、昼過ぎのこの時間は睡魔の方がどう考えても強い。
駅からタクシーを使い、家の前の道路で止めてもらう。もうすでに辺りの景色はほぼ緑一色なのに、さらに緑に囲まれることになる。標高が高い場所は酸素が薄いと言うけれど、ここは間違いなく近所で一番酸素濃度が濃いのではないかと思う。実家に帰る度に植物が増えていく。もはや玄関前はプチジャングル状態だ。
「早かったじゃない」
急に後ろから声をかけられて、思わずビクッと肩を震わせてしまった。振り返ると園芸用スコップを持った母がいた。
「いるならいるって言ってよ。びっくりした」
「はいはい、悪うございました。お昼は?棚の中にカステラもあるけど」
「お昼は食べてきたから、お茶だけでいいわ。ていうかまた増えたんだ、花」
想像した通り鉢植え、プランターの次の段階、庭に新たな区画が造成されていた。赤や黄色や鮮やかなオレンジ、毒々しいまでのピンクのまるで炎のような形をした花がいくつも咲いていた。日差しはそこそこ強く、風もないはずなのに悪寒がはしる。
「まさかここまで育つとは思わなかったんだけど、綺麗よね、鶏頭」
およそ170cm無さそうな範囲のケイトウの群生については、これ以上追及しない方が良さそうだ。父は、どうしたのだろうか。
セロシア 原多岐人 @skullcnf0x0
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