第17話 天空の恋人
半年も過ぎたころ会社に突然一馬の退社願いが届いた。そこには一馬の字で一身上の理由により退社したいこと事情あって姿を消したお詫びが書いてあった。アパートにも同様なものが届き、荷物は全部知らぬ間に運ばれて行った。
有住と麗奈はどうしても納得できなかったがそれきり彼とは連絡も取れなかった。
木村会長が亡くなったと二人が聞いたのはそれから暫く経った頃だった。会長はこのところずっと会社にも来ておらず、身内はお孫さんが一人と聞いていたが、葬儀も誰も呼ばず質素に済ませたとのことだった。
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月の美しい夜にYOUGENビルの最上階には外を見上げる一つの影があった。美しく結い上げた髪、紫紺の着物をまとった艶やかな天姫の姿だった。
「美しい月。一馬どの、ほら。」
月を指さし、天姫は手招きした。
奥の方から武家の着物を纏った一馬が言った。
「天姫、私は高いところが苦手なのですよ。窓の近くには行けません」
「ふふふ、面白いお方。」
「でも綺麗な月ですね」
天姫は振り向くと微笑みながら言った。
「私は一馬どのと一緒に暮らせて幸せでございます」
一馬は月を背に立つ天姫の姿を見ながらしみじみと呟いた。
「それは…私も同じ気持ちです」
お月さんぼっち
あなたはいくつ 十三 七つ
そりゃまだ若いに
紅かね 着せて
御嫁入なされ
童女のわらべ歌が遠くに聞こえた。
完
天空の恋人 amalfi @amalfi
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