第16話 美しき秘密
木村はおもむろに話しだした。
「私は渋田家の天姫の許婿だった木村仁之助の末裔なんだ。私ら一族は渋田家が滅んで天姫が自害した後も、この土地に住んで代々渋田家の御霊を見守ってきた。
この土地がビルになるときに地主の一人だった私は等価交換でこのビルの最上階の権利を得た。ビルを建てる時の約束で当時の渋田家の天守閣を再現して貰った。それも秘密のフロアにしてね。
私は早くに妻を亡くして、その姿を私の技術で再現しようとした。渋田城の天姫の姿を妻の顔にして幸せな日々を取り戻そうとしたんだ。誰にも知られず私だけの楽しみとして。妻を思い出しながら姿を作るのは楽しかったよ。写真もあまり残っていなかったので、妻と似ている孫娘にも時々モデルになってもらったりしてね。肌触りもシリコンの配合で人間に近く仕上げた。木村家は代々絡繰人形を作っていたから技術に長けていたし、私は特殊な技能には自信があった。コンピュータ技術も網羅し自然な動作にも時間はかからなかった。
夏は蛍を見たり中秋の名月を見たりと天姫と私は本当に幸せな時間を過ごしたんだ。
しかし私ももう歳だ。だんだんに一人では扱い切れなくなった。足が不自由になってからは孫のまどかが手伝ってくれた。頭の良い子でね。大学ではロボット工学を学んで、今は優秀な技師だ。私の望むことをすべて実現してくれている。
だが、この先私が死んだ後の事を考えると心配になった。メンテナンスしなければただのゴミになってしまうし、誰かに見つけられたとして、天姫が見世物になってしまうかもしれない。そう考えると死にきれん。
そこで君を天姫に会わせてみることを思いついた。君なら天姫を愛してくれるかもしれない、ずっと大切にしてくれるのではと。思いのほかの大成功で君はすっかり夢中になったようだ。
なぜ君を選んだか、それは君が入社試験に来た時、君の具象作品の才能を見て気が付いた。君なら美しい顔や形を作れるし、私の美学も理解できると直感的に感じたのだ。
私の孫娘の頭脳と力を合わせて、この天守閣を守って行ってくれはしまいか。」
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