第4話 統括官見解

おおよその話を聞いた後、執務室に帰り後続する情報をまとめていくうちに脂汗がにじまずにはいられなかった。

謁見の場で最悪の事態こそ止めることができたもののあくまで勇者が王子との関係から対応を丸投げする形で引いただけという事態に変わりはないのだ。


これから想定される事を考えると外交担当者や神殿を管轄する人間たちの苦労が思い浮かべられる。

この世界の神は神官への神託という形などで存在がはっきりした存在なのだ。

そして勇者はこれまで幾度も魔族たちとの戦いにおいて神によって遣わされてきた存在で神と神託を得る神殿を背景にその権威はどの国も敬われる存在なのだ。

過去、国の王女などと結婚することで平民であったのが王となった例も少なくないということがそれを表していると言える。


それらを考えるとこの度、王国での殿下の行動は神殿からの勇者への叛逆ともいえる行為に対する非難だけでなく神殿を取りまとめる中央組織が母体となった大きな権威を持つ宗教国家からの国レベルの非難があることは間違いなく、最悪の場合神の名のもとに聖戦を仕掛けられる可能性さえあるのだ。

勇者に援助をすることはあってもその行動を強制するなどありえず、彼らと知ったうえで捕縛したうえに監禁し自国の国益のために奴隷化して操ろうとするなど言語道断で拒否された結果手にかけようとしたなど正気を疑われるだろう。



次の日、王子を介する形で勇者側から基本的に不問とするという連絡があった。

王子が魔族との戦いを考えれば王国が壊滅などすれば大問題だと説明したうえで、陛下が領地や身分などによる賠償を示したようだがほぼ断られたうえでの話の様で勇者からは大きな問題としないということで、王国への罰はおろか殿下への罰も事前に陛下が示した他国への一年程度の駐在だけで済ませることができたそうだ。


たった一年の駐在で済むということで継承問題に影響がなかったと浮かれている殿下の騎士たちが騒いでいるのを眺めながら外務を担当する友人が苦笑いを浮かべながら

「勇者が世間知らずの甘い人間でよかったと騒ぐがその対価として魔族との戦いでの働きを各国から監視されるようになることは間違いない。そして神殿本部の動き、想像したくない」

と愚痴る。


陛下は謝罪のため様々な提案をしたようだがひも付きにするための提案は断られ、税などの優遇を特権として与えたようだが神殿や神などがこれで納得するかと言えばしでかしたことの対価とすれば悩ましく思う。


今回の場合、勇者が周囲が納得する程度の罰を与えたり賠償を受けたりしてくれたらよほどよかったのではないかと思われる。

ある程度目に見える罰があれば神殿などへの言い訳に仕えたのだが。

ないことで介入の口実を与えることになった。


陛下が殿下のことを後継者として優秀としてできるだけ傷がつかないようにかばったようだが、流石に勇者本人だとは気づいていなかったとしても仲間と知ったうえで旗下に加えようと奴隷化を行った場合の勇者の動きや神殿の反応、そして今回の場合エルフが間に入っているため更に問題は大きくなる。

この危険さを理解できないようでは軍事や内政という替えが効く能力でない必須となる統治者としての能力に疑問を感じざる得ない。



そしてエルフ族の回復戦参加と戦勝を祝う式典がその後行われた。

陛下が空気を読み美辞麗句を並べ称揚する一方、前線で彼らと共に戦った将軍たちがフォローに走っているのに対し前回の経緯を知るエルフ族の冷めた空気は文官である私でも感じることができた。

そして厄介なことに今代の勇者は弱腰で押せば引くと今回の事件で受け取った人間たちが利権のおこぼれを狙い勇者にたかる姿を見て悲鳴を上げたい気分にならざる得なかった。

国が倒れるような大問題を起こしたことの無理解と勇者というこの世界の人間では理解できない思考によって動く強大な武力を持つ存在への勘違いが手打ちが済んだと勝手に考えた者たちによって顕在化することを恐れる。

貸しの回収として彼らの価値観では大したことなくても我が国にとっては大問題になるような要求をされるのではないか、

又、神がこの件に対し何ら信託などの反応を示さなかったことも私にとって懸念材料となっている。

以前神は勇者に絡む天罰として大規模な地形変化を伴う大魔法を発したこともある。神の今回の反応のなさは不気味に感じざるえない。


王国を支える当職としてはこの度の事件の処遇による結果に懸念を抱かざる得ない問題だと考える。



王国軍後方支援部門情報統括官 報告・意見書

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王太子による勇者殺害未遂事件報告 @0-33673

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