夫妻との晩餐
ガリウスは信徒会館から出た後、まっすぐ帰宅した。帰宅後は書斎に籠りハンネスに取り寄せて貰った異国の本を読んで過ごした。
ふと懐から懐中時計を取り出し時間を確認すると、既に7時を過ぎていた。彼は時計を仕舞い頬に手をあて、一つ大きなため息を吐く。
「……少し遅いか 」
ふと独り言を呟く姿は娘達の帰りを待つ父親の様だ。ガリウスはおもむろに街道が見える窓を覗くと、皆帰って行っているのだろう時計塔の方角からまばらに馬車の灯が灯篭流しみたいに流れて行った。
程なくしてエマ達が乗った馬車はガリウス邸に到着した。
「少し遅く無いかな? 」
開口一番がこれだ。アンにガリウスは軽く微笑みながら苦言を呈した。目は笑っていない。
「ごめんなさい 。つい時間を忘れてしまって…… 」
エマはついクスッ笑ってしまった。小さい頃アンねぇと遊びすぎて母様に叱られていた風景と同じだったからだ。
「エマ久しぶりだね 」
「お久しぶりです、ガリウスさん。この度は色々と便宜を図って頂いておりありがとうございます。おかげ様でこの街で修行させて頂く事が叶いました 。しかも今日はお洋服迄買っていただきありがとうございます 」
「礼には及ばないよ。君は妻の妹みたいなものだからね 」
ガリウスは未だ16の村娘が発するちゃんとした礼の言葉を聞き僅かながら目元が動く。5年連れ添うアンだけはガリウスの小さな反応を見逃さず、少し胸を誇らしげに膨らませた。
「貴方、今日はもう遅くなっちゃうからエマを泊らせようと思うの 」
「そうだね。なら客室を使ってもらったら良いかな、丁度使用人達が掃除してたから使えると思う 」
「じゃあエマを客室に案内してから夕ご飯の準備するわね、そっち持って頂戴 」
そう言うとアンは買い物袋を両手に持てるだけ持ち、残りだけでもエマの両手が埋まる袋を持たせ階段を上って行った。
夕食はアンねぇの手料理なのだろう、懐かしく、だけど村で食べた時以上に美味しく、満足感に包まれた。街中を歩き回り初体験ばかりだったからか、少し眠い。
ガリウスさんは今日一人で集会に行ったら殴られた事を話している。
「少しの時間であそこまで誤解されるとは思わなかったよ。人の噂とは恐ろしいものだ 」
「そんな事になるんだったら、行っておけば良かったかしら 」
「いや、それだけ君が我が国に受け入れられている証拠だ。偶には1人で行くのも良いかもしれない 」
「そういうものかしら?でもやっぱり私は貴方が殴られるのは嫌だわ 」
「殴られるのは嫌だが、ただ私は嬉しかったよ 」
2人がただただ見つめ合う姿を見るのは温かいが居心地が悪くなるエマ
「エマも集会に参加するのはどうかしら? 」
「それはおいおいで良いだろう。シオン教に入れば我が国により受け入れやすくはなるが、それなりの覚悟が必要だ 」
「私はそんな覚悟した覚えはないわよ? 」
「君は私の伴侶となる覚悟をした。それは我が国の一員となる覚悟と同じだ 」
「あら? 私は貴方の奥さんに成る事にそんな大層な事考えてなかったわ。私は貴方と一緒にいたいと思っただけよ 」
アンねぇはいつもと同じ様にさらっと言いのけるのだが、ガリウスはその純な言葉に目がピクッと動いた。エマは別の意味でお腹が一杯になってきた。
ガリウスは軽く咳払いをして話を続けた。
「エマいいかい?我が妻は君と君の両親に頼まれて後見人をする事になった。いわば我が国での君の母となった。つまり君の安全及び健全に成長させる責務を追う事となったんだ。妻の責務は伴侶である私の責務である。なのでエマ、私達は君の我が国での安全に対し最大限の支援をしたいと思っている 」
エマは半分呆としていた頭を揺さぶる様にはっきりさせ真面目な話をするダリウスにちゃんと聴いていると思われる様背筋を伸ばし、期待に足る人物と見て貰える様言葉を選んだ。
「はい、アンさん・ダリウスさんに御尽力頂いている事に感謝しています。ご期待に添えれる様にします 」
「ありがとう。君の安全を得る為に今日はアンに街を案内させ、危険な通り等を説明してもらった。私達の期待を裏切らない様に、危険な通りには絶対入らないと約束してくれるね? 」
「はい、約束します 」
「後今日はシシィやアンの友人を紹介してもらったと思うが、彼らとも仲良くやってほしい。仲良くしながら彼らの行動を観察して我が国の事をもっと知ってほしい。そうすればこのコミュニティに上手く溶け込む事が出来、より一層安全に過ごせれる様になるから 」
「はい、そうします 」
「ありがとう。そして君が彼らとの生活で必要と感じたなら私達の集会に参加してもらってもいいからね 」
「解かりました。シオン教についても考えてみます。まずは生活基盤を作る事に重視します 」
エマは普段使わない難しい言葉を駆使し、大人ぶったせいか少したどたどしかったが、ガリウスの反応で上手く回答出来ていると実感が持てた。
ガリウスは一仕事終えた時の様に、一つの心配事が消えた様に目にほころびが見えたからだ。
それからガリウス達は、その日聞いた噂話でエマを時々怖がらせながら晩餐を続け最後に、ルツがエマを褒めてた事で終わらせた。仕事以上に新しい事に溢れた今日のおかげでエマの頭は生涯で1,2を争う様に満足感と充実感に溢れてた。
客室に戻ったエマは目をしばたせながら大きなあくびをした。サイドテーブルにある時計は既に23時を廻っていた。
--大人とは大変なものね
もう一つ大きなあくびを携えながら着た服の儘エマはベッドに潜りこんだ。
時計女技師の物語 グシャガジ @tacts
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