親睦会

集会は街はずれに位置する教会にて開催される。教会は孤児院を併設しており敷地内には孤児院と祭儀場と信徒会館が併設されている。

孤児院からは街中に劣らず沢山の子供たちの騒ぐ声が賑やかに響き、祭儀場からはオルガンの音色が天と繋ぐ1本の絹糸の様に練られ厳かに流れている。

ガリウスは入口にて馬車を降り他の信者と共に祭儀場に入って行った。

時折、信者から奇異の目で見られている事で今日は予想以上に大変になると感じた。


集会は厳かに終わり、参加者達は親睦会の為信徒会館へ向かう。信徒会館へ近づくにつれ厳かな雰囲気は消え、いつもの様に各々雑談をしながら会場へ到着した。

ガリウスはいつも以上に話しかけられ少し疲れを覚えた。いたる信者からアンの体調や夫婦仲を遠回しに、或いは直接的に気遣われ、酷い者では何故かガリウスが浮気してアンが出て行ったと勘違いし殴りかかってくる者も居たからだ。

ガリウスは嫁が可愛がってた子が村から出てきた事、今日その子に嫁が街を案内する事を質問してくる相手や殴りかかる相手に説明しなければならなかった。

説明が一段落し殴られた頬をさすりながら親睦会用に準備されたクッキーと紅茶を啜っていた。

ガリウスが束の間の休息を取っていると、エマが修行している工房の親方ルツの姿が見えた。彼も談笑が一段落し紅茶を取りに来たのだろう。ポットからカップに紅茶を注ぎ砂糖を三杯ゆっくり混ぜ、ドーナッツを一個取っている所だった。

彼が紅茶を啜り、落ち着いた隙を突いてガリウスは夫としての責務だと言わんばかりに彼に話しかけた。

「こんにちは、ルツ親方。」

「やぁ、ガリウス君。今日は奥さんは一緒じゃないのかね?」

「ええ、今日はエマに街を案内させているので。」

「そうか、今日は彼女の初めての安息日だったね。街を楽しんでくれると良いが、」

「嫁が案内しておりますので楽しんではくれると思いますが、私としてはそれよりも街について理解してもらったらと思っています。」

「君は心配性だからね。まぁ確かに我が国に早く受け入れられる様、街を理解する事も確かに大事だ。」

そういいながらルツはドーナッツを齧り、至福を堪能する様に目を細めた。

「最近忙しくてね、彼女には入って早々で悪いが夜遅くまで働いてもらっている。本当素直な良い娘だと思うよ。まぁたまに天然な所は在るが其処はそれで愛嬌とも言える。」

「世間知らずな村娘ですのでそこはこれからに期待していただけると助かります。」

「違う違う。別に苦言を呈した訳じゃあ無いんだ。むしろ長所だと思っているよ。職人としての技術を培うには他とは違う視点ってのは大事だからね。」

「そう思っていただけているのであれば紹介した私も有難いです。」

「君は相変わらずマイナス思考だなぁ。」ルツは冗談めかしてブーブー言った。

ガリウスは頬の痛みが心地良いものだと感じた。ルツは良くも悪くも正直な人間だ。鑑識眼も有る。その様な人物からひとまずは褒められたのだ。エマは上手くやっていけるだろう。

それからのガリウスは今日一番の責務を全うした様な面持ちで雑談を楽しむ事が出来た。

雑談としてはもっぱら最近話題となっている機工と魔術を融合させた商品についてが大半だった。帝国ではその商品の普及を促す為職人と魔法使いを番にする法令を発布する協議をしているとか、紛い物が既に流通しだして行方不明者が出ているとか浮いては沈むを繰り返し気が付いたら15時を廻っていた。

ガリウスはそろそろお暇しようと思い、未だ残るルツ達に挨拶し信徒会館を軽い足取りで出て行った。

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