第53話

 反逆勇者デニス討伐軍は瓦解し、大陸中央のデニスたちコミュニティにひと時の平和が訪れていた。


「さて、これからどうするかだ」


 討伐軍により一時的に避難してきた人々も東へと戻り、獣人族の軍も西へと戻った。今デニスの元にいるのはカンタンたちの村人とエメの魔族軍だ。


 そしてこれから行うべき目的は分かっている。ひとつはヨーゼを助けるための高度な魔法使いを見つける。もうひとつは国王との確執を無くす行動だ。


 前者は単純に捜索するしかなく、後者はいろいろな選択肢がある。国王の元へ要求を通すだけの軍勢を集めるか、新たな均衡を作り和平を結ぶか、直接的にやり取りをして交渉するか。それはまだ決まっていない。


 何せどれも王国に近づかなければ成しえないからだ。


「となると決まりだな」


 デニスはいつものエメ、ゴロウ、カンタンを集め、簡易的な待合室で作戦会議を行った。


「ここを離れるんですか!?」


 デニスの提案に驚いたのはまずカンタンだった。それに対してゴロウはなるほど、と相槌を打った。


「ヨーゼ殿の治療の模索、そして王国との決着をつけるためにも北東へ向かうのは当然でござるな。侵入ルートも決まっているでござるか?」


「ああ、ある程度はな。そこでお前たちに選択して欲しい」


 デニスの言葉に皆はキョトンとした。


「ここを離れる以上皆に無理強いしてついて来てもらうわけにはいかない。だからここに残るか、一緒に来てくれるか判断して欲しい」


 ここ、大陸の中央はある程度基盤ができつつある。その一方、王国のある北東への進行は危険を伴う。普通なら好き好んで向かう人間はいないはずだ。


「それはちょっと今更じゃないですか?」


 ただ3人の意思はそう迷うものではなかった。


「私の目的はデニスからダンジョン運営のノウハウを教えて、その代価を払ってもらうことです。まだまだ知識も足りませんですし、今の資産じゃ足りないですよ。しっかりきっかり払ってもらうですからね」


「エメ殿がそう言うならば、我も同じである」


 そしてカンタンの方も同じだった。


「僕は村人たちを守りたい。その最も障害になるのは王国です。僕自身も国王に魔族との関係をどうにかして欲しいんです」


「エメとゴロウはいいとして、カンタンはそれでいいのか?」


「もちろんです! ヨーゼさんは師匠ですから助けたい。それに僕がいなくとも今の村人たちは一筋縄ではやられませんよ」


 カンタンがおもむろに待合室の出入り口を開くと、そこには村人たちが集まっていた。


「村長代理のカンタンは元勇者のデニスと共に王国との決着を付けに行きます! これを良しとしない者は手を挙げてください!」


 その瞬間、ざわついていた村人たちはシーンッと沈黙した。


「ではこれを良しとする者は諸手を挙げてください」


 その途端、村人たちはワッと喝采と共にデニスの決定を喜んだのだ。


「ひとりで行くなんて寂しいこと言わないでくれ! 俺たちもついて行かせてくれ!」


「この命を救ってくれただけではなく生きがいや目的をくれたんだ! 見放さないでくれ!」


 村人たちは口々にデニスと共に歩むと言い出す。


 この反応はデニスを驚かせるが、エメやカンタン、ゴロウたちは「その通りだ」と頷(うなず)いた。


「デニスが思う以上に皆はデニスを必要としているのです。今更、はいさようなら、なんて通じないですよ」


 デニスたちは待合室から出て、村人たち、魔族の兵士、モンスターを見回した。


「王国への道は険しいぞ」


 デニスが皆に問うと、誰も彼もが首を縦に振った。


「それでも俺について来てくれるのか!」


「応っ!!!」


 デニスは声がかすれるほど大きな声で求めると、その場の全員が大声で同意を示した。


 魔王城からここまでの道のり、デニスはダンジョンや村人、それ以外の人々を利用する計算ばかりをしていて忘れていた。人間は感情で動く生き物、更に自らの意思で道を選択する生き物なのだ。


「分かった。俺はお前たちの命運を預かり、それ相応の責任を果たさせてもらう。例え多くの者が倒れようとその魂を忘れず、例えこの身が滅びたとしてもその意思を連れて行ってくれ!」


 デニスが皆を鼓舞すると、歓声はより大きなものとなった。


「皆、準備しろ! まもなく王国へと向かう!」


 かつて魔王を討伐し、王国に裏切られ、村人を利用とした男は限りない声の前で旅立ちを宣言するのだった。

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ダンジョンマスターの村人プロデュース~裏切られた勇者はダンジョンにて村人を育成するようです~ 砂鳥 二彦 @futadori

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