おまけ読み切り――【タイムスリップ編】

【タイムスリップした娘と気にしない母親】


 ―――


 ――


 ―


 そしてわたしは、初めて【異能】でタイムスリップをした。


 過去にきて、まず接触したのは、わたしがこの世界で生活するにあたって、絶対に避けられない人……、お母さんだ。


 目の前に自分と瓜二つの姿をしたわたしが現れれば、細かい事情を話さなくてはならない。

 普通は、わたしから切り出さなくてもお母さんの方から根掘り葉掘り聞いてくるはずだけど……、お母さんは一言だけ、


「私の代わりに学校にいってくれるなら、なんにも聞かないよ」


 と、だけ言った。


 本当に、わたしの正体も、目的も、聞いてこなかった。


 わたしなんかよりも、海外へ観光にいけることに気持ちがいっている。


 今もわたしの目も見ずに、スーツケースに荷物を詰め込んでいる……。


 ……タイムスリップしてきたことを隠せるなら、隠せるに越したことはないけど――、

 ここまで興味がないって態度を取られると、こっちから進んで言いたくなってくるんだけど。


「言わないでいいから。べつに興味ないもの。聞いたって、手伝う気もないんだから」


「……わたしが、おかあ……、あなたのフリをして、学校で騒いでもいいの?」


 過去へきた目的のせいで、

 お母さんのこの時代における立場が、悪くなるかもしれない……。


「したければすればいいんじゃない? 

 私が帰ってきた時に面白いことになっているなら、立場が悪くなってても全然構わないから」


「わたしが本当はあなたじゃないって、友達に明かしてもいいの? 

 あなたのフリだってしないよ? 学校の先生にも、別人だってばらしちゃうよ?」


「いいわよー。相手が信じてくれるなら、その上でどう行動するのか楽しみね」


 ……確かに、普通は信じないよね。


 わたしが未来からタイムスリップしてきた、お母さんの娘だ、なんて言っても……。


「なにが目的か知らないけど、せっかくここまできたなら楽しんだ方が得よ。

 なにか大事な目的を掲げているようだけど、

 あまりそれにばかり固執していてももったいないんだから」


「……長くもいられないよ。悪影響を与えたら、本末転倒だもん」


「あそ。せめて、一週間は私に休暇を取らせてよね」


 過去にきて、一番最初にぶつかるだろう壁。

 活動するにあたって、身動きが取りやすくなるこの時代での立場を、

 早いところ築かなければならない最初の課題が、あっさりと突破できてしまった。


 手間になるよりはいいのかもしれない、けど……。



 お母さん、もうちょっと、心配した方がいいんじゃないの……?

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アラカタミサキの監獄生活‐プリズンライフ‐ 渡貫とゐち @josho

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