第2話 一年後

 スマホからアンインストールするのを躊躇い、なんとなくショートカットアイコンが残っていたステクロ。


 心の傷も大分癒えた俺はなんとなくステクロを起動してみた。起動すると新たに結構な量のデータを読み込んでいる。そりゃそうだろう。ブランクが一年あれば色んな面でアップデートも行われるだろうしな。コンテンツやキャラクターなんかも増えてるだろうし、浦島太郎が竜宮城から地上に戻った時の気分が味わえることこの上なしだ。


 まず最初にちょうどプレイヤー復帰イベントが開催されていたのか「お帰りなさい」と表示されて初めて見るキャラクターとアイテムをプレゼントされた。


 まぁ、どうせプレイする気はないからあまり関係ないんだけど。それはともかくまずはチャットの部分に目がとまる。微かによみがえる苦い記憶。そしてチャットには一年前にも見た名前の人が雑談をしているようだ。まだいたんだな。もちろん知らない名前の人も大勢いた。


「……ん?」


 チャットの所に以前とは違う部分がある事に気付いた。「世界」「サーバー」「ギルド」と分けられているようなのだ。


(あー……そういう事も当然あるか)


 そう思ったと同時に辿り着くもうひとつの当然。俺はギルドの部分をタッチして同じギルド所属のメンバーで会話できるウィンドウに切り替えた。


「……ははは。やっぱりな」


 何も表示されてないウィンドウ。俺には必要ない機能と言ってもいい。一年前の古傷? が痛んだ気までしてくる。


 そりゃそうだ。実質ギルドクエスト報酬用に立ち上げたソロギルドなのだから。むしろここに何かが表示されている事の方がおかしい。


 俺はおもむろにチャット入力画面を呼び出す。「コウ=ヒトリミ。ただいま戻ってまいりました。……なんてな」と打ち込む。


 一年前に団員を募集しようとした時と比べてこの気安さよ。まぁ当たり前だよな。誰も反応しないのが最初から分かってるんだから。


 心に空しい風が吹く。俺は自虐的に笑ってそのメッセージを送信した。


 その後持っているキャラクターやアイテムなどを見直して現在のステクロとの違いを色々と確認していたのだが個人的には中々楽しかったと思う。


「さて少し遊んだし、これで本当にお別れかな……」


 俺は他のプレイヤーがやたらと密集している(ログイン時の出現位置)画面を見ながらそんな事を呟く。画面内を右から左へと走り回っているキャラクターもいる。クエスト中なのかもしれない。


「うん?」


 俺はゲームを消そうとした直前ある事に気付いた。チャットのギルドの所に赤い点みたいなものがついている。こんなものはさっきまでなかったはずだけど……なんだこれ?


 そこを触るとギルド専用チャットが開く。


『コウ=ヒトリミ。ただいま戻ってまいりました。……なんてな』

『お帰りなさいマスター! (^-^ゞ』


 なんだ? 二つ目の文章なんて打ち込んだ記憶ないぞ?


 他者からのメッセージだとそのプレイヤーの名前が表示される。「ノレイン」……知らない名前だ。


 これが一年振りにログインした俺と脱兎の日で知らない間に古参メンバーになっていたノレインさんとの邂逅の瞬間だった。

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ギルド作ってもずっとぼっちだったので一年放置してインしたらなぜか最強ギルドの一角になっていたんだが(ステクロギルド譚) 乙彗星(おつすいせい) @orznaburu

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