ギルド作ってもずっとぼっちだったので一年放置してインしたらなぜか最強ギルドの一角になっていたんだが(ステクロギルド譚)
乙彗星(おつすいせい)
第1話 当初はソロのトッププレイヤー
俺はコウ=ヒトリミ。もちろんこれは本名じゃない。スマホのオンラインゲーム、「ステータスでクロニクル」通称「ステクロ」でのプレイヤーネームの事だ。
若干の古臭さ……もとい懐かしさや、日本語の説明が変な所はあるが、キャラの可愛さなんかの要素で当時このゲームにドはまりした俺は課金アイテムも全部揃え、キャラも育てて各種コンテンツの上位に名を連ねるなどリアル世界と仮想世界が逆転する程の生活を送っていた。
あえて欠点をあげるとするなら他人とのコミュニケーションが苦手で一人黙々と遊んでいた事位だろうか。真偽のほどは定かではないが「寡黙の孤高神プレイヤー」とか揶揄されていたとか。とにかくチャットで発言した事はない。
……そう、あの時までは。
─ギルド機能。思えばこんなものが実装された時、俺の栄華の時代は終わりを迎えようとしていたのかもしれない。
ギルドとはいわば団体。要はみんなで同じ団体に所属して協力して報酬を得たり、団体同士で競って特別な報酬を得たりしましょうってやつだ。
ゲームは好きだがコミュニケーションが苦手な俺はひっそりと「脱兎の日」などという「個人」ギルドを作成した。これでも一応はギルドとして認識されるので報酬は貰えるのだ。
しかし一人ではやはり限界があった。ギルドへの貢献度で成長していくのだが、一日で稼げる上限があるため、いくらプレイヤーのステータスが高くともメンバー数の壁はこえられない。
ある日俺は意を決した。ギルド名、脱兎の日が象徴する逃げる日をやめてチャットでギルドメンバーを募集しようとしたのだ。
……息が苦しい。スマホの文字入力画面を見るだけでこれだ。ステクロのチャットはいつも賑わいを見せている。俺には縁のなかった世界だ。
ランキングでは見たことはなくてもチャットで見ない日はない名前の人なんかもいる。俺がこんな場所で発言できるのか? 他人の話の流れを遮ってまで?
ごくり。思わず唾を飲み込んだ。手を伸ばしペットボトルの水を飲んでから再び文字入力画面と向き直る。……こんな事を何度か繰り返し、遂に「脱兎の日は団員募集してます」と打ち込めた。
その時を思い出すならチャットは他愛ない雑談で盛り上がりを見せており、ギルド機能が導入されてから日数も経過していた事もあって、他のプレイヤーはまずどこかしらのギルドに所属していたりもしくは代表だったりしていたと思う。俺の個人ギルドがギルド間でプレイヤー名と同じく有名かと言えばそうでもなかったって事。
息を乱し、震えながら打ち込めた俺の脱兎の日は団員募集してますの文字はあっという間にチャットの波の彼方へと送られて行った。
当然誰からも申請など来ず、たったあれだけでと言う人もいるだろうが、心を大きく削がれた俺はその日を境にログインしなくなる。
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