アフターストーリー

【前書き】


本日、3月30日にコミカライズ1巻が発売になりました!ヾ(o´∀`o)ノ

(同日発売の『異世界クラフトぐらし2巻』もよろしくお願いします)


こちらは、コミカライズ記念のアフターストーリーです!




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 フェンネル王国にありったけの持ち金を寄付して、無一文になった僕たちは、とても貧しい食生活を……送っていない!


 料理という大きなアドバンテージを失ってしまえば、僕なんてタダの子供に成り下がってしまう。幸せな日常を送り続けるためには、妥協できない部分であったため、必死に考えた。


 最近は凶暴な魔物が暴れまわることも少なく、スズみたいな上級冒険者の出番はない。だから、仕事がない。金もない。


 それでも、腹が膨れ方法だけはある。


 醤油戦士、最大の武器ともいえるユニークスキル【調味料作成】には、本当に調味料とカウントしてもいいのか? というものが存在するから。


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 料理調味料:Lv.8


 ・醤油    ・ソース

 ・香辛料   ・卵

 ・塩     ・味噌

 ・昆布だし  ・鰹だし

 ・ケチャップ ・マヨネーズ

 ・料理酒   ・みりん

 ・ゴマ油   ・片栗粉

 ・ルー


 お菓子調味料:Lv.8


 ・砂糖

 ・チョコレート

 ・牛乳

 ・生クリーム

 ・インスタントコーヒー

 ・ココアパウダー

 ・ゼラチン

 ・白玉粉


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 よって、スキルだけで料理ができちゃうという事実に気づき、食費を100%カットすることに成功していた。


 具材のないプレーンオムレツを作り、鰹だしにカレーのルーを溶かしてかける、オムレツカレー。これにはスズも、むっほりである。


「むほっ! ほとばしるカレーのスパイスに卵のまろやかな味わいが重なり、全身の細胞に染みわたる。もう……カレーなしの生活には戻れない!」


 さらに、鰹出汁・砂糖・みりんを卵と合わせて丁寧に焼き上げると、お寿司屋さんで出てくる甘い卵焼きだって作れちゃう。これにはフィオナさんも、頬を緩める。


「どうしてこれほど優しい味に仕上がってしまうのでしょうか。口当たりが優しくて、とてもふわふわしています」


 しかし、質より量を求めている人もいる。そんなリーンベルさんには、ゆで卵にマヨネーズをかけただけの手抜き料理で対処したい。


「マヨネーズと卵っていいよね。世界で一番相性のいい組み合わせだと思うもん」


 タマゴサンドをこよなく愛するリーンベルさんにとって、手抜きのはずがご褒美になるのだった。


 まあ、さすがに卵料理だけでは乗り切るのは難しいだろう。しかし、ここに悪魔のような料理を付け加えることで話は変わってくる。


「今日はみたらし団子も用意してみたよ」


 少量でも腹が膨れ、【調味料作成】のスキルだけで作れる料理、みたらし団子。決して卵料理と一緒に食べるものではないが、それはそれ、これはこれ。


 口の中をお茶でリセットして、おいしくいただいてもらいたい。こんなことを考えなくても、おいしくいただいてくれると思うけど。


 スズのキラキラとした目を見れば、それは一目瞭然だった。


「むほっ! 私は知っている。この光を反射するタレの照り方は、相当悪いことをして生きてきたはず。絶対に甘みで勝負してくる」


 悪い奴は甘い言葉を使ってくる、的な感じかな?


「わかるよ、スズ。持ちあげただけなのに、タレの粘度が伝わってくるんだもん。このまとわりつく感じは、底なし沼みたいな危険性を持っていると思うの」


 みたらし団子の沼に溺れる人はいないと思いますけど。


「お待ちください。本当にタレだけが危険なのでしょうか。この焦げ目、わざとらしくありませんか? おそらくですが、芳ばしい味も合わさってくるかと」


 一人だけ視点が料理研究家みたいですね。スキルだけで作ったものなので、ちょっと申し訳ない気持ちが生まれてきますよ。


 あと、みたらし団子はそんなにジロジロ見るものではないですよ。皆さん、照りの光具合を研究されなくても大丈夫ですからね。


 三人だけで謎のみたらし団子会議が行われた後、クンクンとニオイを嗅いだスズがパクリッと口にした。


 みよーんっと団子が伸びるのは、焼き立てだからである。


も、もっちもちむ、むっほむほ!」


 想像以上の食感にテンションが上がるスズを見て、リーンベルさんが我慢できずにかぶりつく。


「あぁー……もう負けた。団子の沼に引きずり込まれたもん」


 どうしてリーンベルさんは落ち込んでいるんだろうか。両手に串を持ち始めたから、絶対好きな味だと思うんだけど。


 姉妹で正反対のリアクションを取っているなーと眺めていると、妙に落ち着いて食べるフィオナさんが視界に映った。


「とても上品な味ですね。焼き立ての団子が温かく、とても柔らかい食感でありながらも、粘度が高い。砂糖と醤油の大胆な甘みとは違い、団子から染み出てくる甘みはまろやかです。この焦げ目が奥深さを出しているのでしょうか」


 本当に料理研究家の方ですか? ちょっと専門的すぎて、作った僕もついていけませんよ。


 最近は卵料理が中心だったからか、予想以上にみたらし団子の人気が高く、次々に減っていく。


 一番食べているのは、当然のように串二刀流のリーンベルさんだ。パクッ、パクッ、パクッとリズミカルに食べているが、喉に詰まらせないか心配である。


 いや、それよりもスズが心配だな。競争しているわけでもないのに、対抗意識を燃やして勢いよく食べ始めている。


 どうして絶対に勝てない相手に戦いを挑んでいるんだろうか。リーンベルさんの胃袋はブラックホールであり、強靭な顎は魔人級だとわかっているはずなのに。


 当然、みたらし団子の粘度にやられたスズはすぐに失速した。


 しっかり噛まないと、飲み込めない。それがみたらし団子である。決して勢いよく食べるものではない。


 敗北感に満ちたスズの頬にタレがいっぱいついているので、仕方ないと思い、濡れタオルで拭いてあげることにした。


「ほらっ、スズ。動いちゃダメだよ」


 以前の僕だったら、こんなことは興奮してできなかっただろう。必要以上に胸を高鳴らせ、その辺の床に転がっているのがオチだ。


 でも、最近は家でスズとフィオナさんと一緒にゴロゴロと甘々な生活しているからね。


 これくらいは朝飯前―――、


 ドドドドドドドドド


 なわけがない! 実はすごい頑張っている! スズさんの顔のタレに集中しているが、上目遣いでジーッと見つめられれば、僕の心臓が持つはずがない!


 でも、少しくらいは次のステージに進みたい。せめて、三十年以上守り続けている僕のファーストキスを奪ってもらいたいんだ!


 そんな強いで挑んではみたものの、まだまだ恋愛というものを甘く見ていたと痛感する。


 ピーーーーーーー


 勝手に心臓が停止して、モスキート音を鳴らし始めたんだ。


 よかったよ、種族が謎のハイエルフで。普通の人間だったら、心停止をして死んでいるところだった。


 ひとまず、無事にスズの顔を綺麗にできたので、平常心で報告する。


「ほ、ほ、ほ、ほらっ。ももももももう取れたよ」


「……ありがと」


 ちょっぴり顔を赤くしたスズさん見て、もっと簡単なイベントから進めようと思った。


 至近距離でスズさんに見つめられたまま、顔に触れてはならない。そんな大切なことをみたらし団子が教えてくれたんだ。


 しかし、ここで事件が発生する。フィオナさんがタレを指ですくい、頬にペタッとつけるという決定的瞬間を目撃したから。


「タツヤさん、私も顔にタレがついてしまいました」


 みたらし団子から教訓を得たばかりの僕は、グッと足に力を入れて踏ん張った。


 恥じらうフィオナさんに見つめられたまま、タレは拭き取ることはできない。このステージはまだ早すぎるんだ。諦めよう。


 ましてや、食べ物を粗末にするなんて、絶対にやってはならないこと。今まで【調味料作成】で散々醤油やマヨネーズをまき散らかしてきた僕が言える言葉ではないが、あえて言おう。


 明らかにわざとつけましたよね? そう問いただして、反省を促すべきである!


「フィオナさん、意外におっちょこちょいだったんですね」


 言えない! そんな好意的な恋愛イベントが発生したのなら、心臓の一つや二つは軽々と捧げよう!


 それが男ってものだから!


 ドドドドドドドドド


 再び心臓がマシンガンを打ち始めると同時に、予想外の事件がまたまた発生する。対抗意識を燃やしたリーンベルさんが、指にタレを付けて差し出してきたんだ。


「タツヤくん、私もタレが手に付いちゃったみたい。ほらっ、あ~んしよっか」


 ちょっと待ってよ、リーンベルさん! 急に難易度を上げすぎだから! そのプレイは明らかに早すぎるよ!


 でも、そういう思い切りがいいところ……好き。


 そんな僕の心の声が聞こえたのか、迷うことなくリーンベルさんが指を近づけてくる。


 本当に待ってください。心臓が持ちそうにないんですよ。いや、本音を言うとそのままお願いします。この勢いに流されないと、一生できないと思いますので。


 あぁ……リーンベルさんの指が……。みたらし団子のタレが付いた指が……。どんどんと近づいてきて……!


 あぁぁぁぁぁ! パクッ! ……としたのは、横から割り込んだスズだった。


「手にタレがついたら、洗うべき。ちゅ~~~~~!」


 脅威的な吸引力でリーンベルさんの指を吸い取るスズの姿を見て、ちょっぴり冷静になった。


 僕はいったい、何を見せられているんだろうか。どこぞの掃除機よりも恐ろしい吸引力だよ。


 よし。とりあえず、フィオナさんとのみたらし団子の恋愛イベントをやり直そう。


「フィオナさん、意外におっちょこちょいだったんですね」


「そうですよね、ちょっぴり恥ずかしいです。優しく拭き取ってくださいね」


 この日、僕はフィオナさんに見つめられながら、みたらし団子のタレを取った。心臓が再びモスキート音を鳴らしたので、もう少し簡単な恋愛イベントからこなしていこうと心に決めるのだった。




―――――――――


【あとがき】


最後までお読みいただき、ありがとうございました!!

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漫画を担当してくださった天栗めし子先生が、とっっっても可愛く仕上げてくださっておりますので、ぜひぜひコミカライズ版もチェックしてみてください!

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万能スキル『調味料作成』で異世界を生き抜きます!【Web版】 あろえ @aroenovel

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