107話・(最終話)・今夜、覚えてろ
ラメル王子のお見合い相手はカミーレだった。王妃さまがわたし達を呼んだのはカミーレを綺麗に装わせる為だったのだ。カミーレは女装してラメル王子の前に出た。何も知らない王子は感激していたが、
その後、がっかりして城を去ることになった。
「あなたが男性だと? 信じられない」
カミーレから真実を告げられた途端、ラメル王子は衝撃を受けたらしく、足下をふらつかせながら後退りした。落胆するラメル王子に付き添って、ロリアンとセージもエセン国へ帰ることになった。
後日、カミーレはしでかしたことの責任を取って王籍は抜かれ、王位継承権は放棄することになった。平民として生きていくことが決まったカミーレは、ナナホシのもとで修行して商人として生きていくつもりだと、出航するのを見届けに来たわたしに言った。
長かった髪を切り短髪となったカミーレは、商人の服を着こなし、別人のように清々しい顔をしていた。まるで憑きものが落ちたようにすっきりした顔をしていてわたしは安堵した。
「体に気をつけてね。カミーレ」
「きみもね。リズ。オオカミさんには気をつけてね」
「おい。カミーレ。離れろ」
抱擁しあうわたし達をアーサーが引き剥がしにかかる。
「アーサー。嫉妬深い男は嫌われるよ」
「放っておけ」
カミーレが笑うと、アーサーは面白くなさそうに言う。
「目障りだ。さっさと行け」
「アーサー。そんな言い方ないわ」
「おまえはこいつの腹黒さを知らないから」
「最後のお別れぐらい大目に見てよ。ね、リズ」
「そうよ。アーサー」
「おまえはなぁ……」
呆れたように見るアーサーの胸元を押し返し、カミーレと向き合う。アーサーはわたしの事となると心が狭くなるみたい。カミーレの側にいるわたしが許せないようで、自分がその間に立つ。
「元気でね。カミーレ」
「うん。リズ。五つ子達によろしくね。帰って来たら沢山のお土産を持って伺うよ」
「ありがとう。みんな喜ぶわ。きっと」
「おい。カミーレ。リズがダメなら今度は五つ子達か? 手を出すなよ」
「アーサーったら、父親気取りなんだから」
アーサーの言葉に呆れたら、カミーレが「大変だね」と、笑った。
「じゃあ、行くね。リズ」
「カミーレ。気をつけて」
船に乗り込もうとしたカミーレは、振り返るとわたしの頬にキスをした。
「カミーレ……!」
「好きだったよ。リズ。バイバイ」
それだけ囁いて彼は踵を返し、船に乗り込んで行った。わたしは頬を押さえてカミーレの後ろ姿を見送った。カミーレはわたしへの思いに決別したようだった。わたしも可愛かった彼に心の中でさよならを告げていると、隣でアーサーが地団駄を踏んで悔しがっていた。
「あいつ……!」
その態度が大人げなく思われたのだけど、何だか愛おしく思われてわたしはアーサーの前に背伸び立ちした。
「アーサー」
「なんだ?」
彼の頬にキスしたら、彼の顔が真っ赤になった。
「お、おい。急に何するんだ」
「いつものお返し」
いつもアーサーからキスされているから、たまにはわたしの方からね。と、微笑めば端正な顔立ちが近づいてきて囁かれる。
「今夜。覚えとけよ。寝せないからな」
「……?」
「さ、行くぞ」
鈍感なわたしがその言葉の意味を知るのは夕食のあと。何も知らないわたしは、アーサーの強がりが可笑しく思われて笑っていたら、彼が大股で歩き出したのに気がついて慌ててその後を追った。
🐺獣人辺境伯の心配は尽きない~白耳うさぎは黒狼を翻弄する~ 朝比奈 呈 @Sunlight715
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます