第3話 胸の内にあった想い
「本題については、や。後で話すから。話、続けようや」
「う、うん。それで?」
すっかり、俺たち二人は真面目ムードに。
「津田たちと別の中高生活はそれなりに楽しいけど。やっぱ、悩みはいっぱいあった。って、その辺は散々話したからわかっとるよな?」
目の前の彼女を真っ直ぐ見据えて話す。
友達関係がギクシャクしたとか、出来る友人へのコンプレックスとか。
まあ、色々あった。
「その時は、金森やと、繊細なところはどーにもわからんあるから、いっつも、津田に相談しとったやろ」
さすがに、女子だけあって……というよりも、彼女の人柄か。
思春期には、すっかり聞き上手になっていたものだ。
「ウチはリョウタが頼ってくれて嬉しかったよ?やから……」
気にするな、と。そう言いたいんだろう。
「待て待て。言いたいんは、そういうことやなくて。津田がいつも、悩み相談の最後に言ってくれた言葉。覚えとる?」
それは、俺にとって、ずっと救いだった言葉なのだ。
「……」
「「ウチはリョウタの幸せをずっと願っとるから。何があっても、時間が経っても。それだけは、絶対に変わらんから。忘れんといてな?」って」
毎回、毎回、しつこい程、言っていたから、彼女にとっての誓いだったんだろう。
金森は、あれで照れ屋なところがあるから、言葉では言ってこなかったけど。
「今、思えば、ウチ、すっごい恥ずかしいこと言っとるなあ」
天井を見上げて、何やら、懐かしげな声。
きっと、中高の頃を思い返しているんだろう。
「やから。俺は、そんな優しいお前に惚れたんよ」
恋人になった間柄となっては今更の話。
ただ、これからする事を考えると、改めて伝えておきたかった。
「それとな。あの時は、言えへんかったけど。俺も俺なりに、津田の、金森もやけど、幸せをずっと祈っとった。やから、同じ大学に行けるようになった時は、ほんま、嬉しかったわ」
津田に、ずっと抱いていた感謝と愛情が伝わるように。
こういう話だから、ほんとは金森にも来て欲しかったのだけど。
まあ、彼なりの気遣いって奴だろう。
「そういえば、入学式で告白された時は、ほんま、びっくりやったね」
クスっと笑いながら、幸せそうな顔で見つめてくれる。
「俺の初恋舐めんなや。ぶつけるタイミングは、あん時しかないと思ったんや」
入学式が終わって、三人で帰る途中のことだったか。
金森が離脱した後、俺は思いの丈を彼女に告げたのだった。
◆◆◆◆
「これで、ウチらも大学生やね。また三人で嬉しいわあ」
「そうだね。こちらこそ、よろしく」
「リョウタは寂しがっとったしな。良かったな」
と、拳を差し出してくる。合わせて、僕と彼女も拳を差し出す。
「あ!」
ふと、金森が何やら思い出したような声。
「ちょっと、キャンパスに忘れ物したわ。取りに言ってくる」
「それやったら、ウチらもついてくで」
「ええから。先に帰っといて?」
と、止める間もなく、奴は大学方面に走り去って行った。
直前に、サムズアップをして。本当、気が利くんだから。
「はあ、ま、二人で帰るとしよか」
「ねえ、実はさ、今日、伝えたい事があったんだ」
友人の気遣いを無駄にしたくない。タイミングは今だと思った。
「また、なんや悩み相談か?」
と僕の方に向き直って、笑顔の彼女。仕方ないなあ、と。
「今日は違うよ。そうだね……打ち明け話になるかな」
「わかった。聞いたる」
目を閉じて、何やら深呼吸の彼女。
これから僕が言うことに、何やら感づいたようだ。
「これはさ。中高の時はずっと言えなかったんだ」
「……」
「だって、その頃言っちゃったら、今までのように居られなくなるだろうし」
「……」
「でも、今日から、僕らも同じ大学。失敗しても、大丈夫」
「友達で居られなくなるかも、とは考えへんのかいな」
お互い、探り合うように視線を交わす。
「中高六年間、大丈夫だったんだし。そのくらいは信頼してるよ」
「そやな。もし、そうやったとしても、大丈夫やよ」
「そう言ってくれると思ってた」
「もし」なんて言ってくる時点で、答えがわかってしまった。
「ま、一言で言うと、好きだよ。津田」
「おっけ。付き合ったる」
「なんか、上から目線なんだけど?」
「そのくらい許してえな」
「よし。許す」
「やったら、これからも、よろしくな?」
と、ギュウっと抱きしめられる。
「ちょっと、いきなりは恥ずかしいんだけど」
「告白しといて、何言っとるんかいな」
「ま、それもそうか。じゃ、遠慮なく」
なんとなく、お互いに抱きしめあった僕たち。
◇◇◇◇
思い出しても、なんというか、妙な告白だった。
「でも、意外やったけど、ウチも嬉しかったんよ。リョウタは、ウチが今まで会った男子の中で、一番の男やったし」
一番、か。そうまで言ってもらえるのは男冥利に尽きる。
「それ言うなら、津田もな。俺が今まで会った中で一番の女の子……って、もう、女の子って歳でもないな。一番の女性や。弱い立場の誰かに寄り添える心根も、おおざっぱな癖して、変な部分で繊細なところも。もちろん、妙なところでかわええとこもな」
今まで、少し照れくさくて、恋人になってからも、言えてなかった言葉。
でも、今日、この日の事を考えると言っておくべきだと思った。
「……なあ、リョウタ。今日の本題やけど、そろそろ言ってくれへん?」
「そうやな。んー、少し待ってな……」
俺と結婚して欲しい。何か違う気がする。
俺のお嫁さんになってくれ。それも違う気がする。
大体、津田なんて、お嫁さんって柄じゃない。
あえて言うなら……。
「津田。今まで。それこそ。幼稚園の頃から。色々あったけど、一緒にいてくれてありがとうな。今はこうして恋人としていられることも。でもな、俺はそれ以上になりたい。人生が終わるまで、お前とずっと一緒に居たい」
俺が、ただの「リョウタ」だった頃を知っているのは、金森とそれと津田だけ。
父さんも母さんも、もちろん、色々知っているけど、親には言えないこともある。
そして、俺が中高の友人関係よりも、二人との関係を重んじたように、二人も同じように、俺との関係を重んじてくれた。
だから、これからのこいつとありたい関係は、人生が尽きるその日まで、共に同じ道を歩んでいくこと。ただ、それだけ。
「やっぱ、それやったか。なーんとなく、そんな気がしとったんよね」
全く驚いた様子もなく、平然とその言葉を受け入れてくれる。
「ウチも、同じ言葉を送るな。ウチは、色々不器用やったけど、色々一緒にいてくれて、ずっと助かったわ。欲を言うなら、ウチは人生が終わっても、リョウタとずっと一緒に居たいわあ。それと、友人としてやけど、金森もな」
本当に、俺たちは、大概、情が強すぎると思う。よし。あとは。
「それやったら、この婚約指輪、嵌めさせてもらってええか?」
「ん……。ほい」
左手の薬指を差し出してくる津田に、そっと指輪を嵌める。
「もうすぐ、社会人やから。婚約出来てよかったわ」
そう。社会人になる前に、この気持ちはずっと伝えたかった。
「きっと、ウチは、この日のこと、ずっと、覚えてるわ」
「俺もやな」
気がついたら、二人、身を寄せ合っていた。
「なあ、結局、幼馴染ってなんやろな」
「単なるネタ振りやったんやないの?」
「いや、素朴に疑問でもあったんや」
劇的な再会イベントがあったわけじゃない。
自然に、ただ仲良く過ごしたわけじゃない。
お互いの関係を大事にするために、おそらく、お互いに
たくさんの時間を費やした。
「一つ、思うことがあるんよ。小学校の頃って、誰でも、ウチらでも。仮面を被ることなく過ごすことが出来た時期やないかって。人前で泣いても許されるし。そんなに、人の目言うんも気にならんかったしな」
「それは……そうやな」
「やから……ウチらが、その幼馴染っていう奴なんやったら。幼い頃から、ずっと、お互いに想い出を、体験を大事にした間柄が幼馴染って言うんやないかなって」
なるほどな。その物言いは、不思議としっくり来る気がした。
「よし。やったら、その辺踏まえて、レポート書いてみるわ」
と言うなり、僕はICレコーダーを取り出す。
既に、これまでの会話はきっちりと録音されている。
「なあ。婚約者として、一言言ってええか?」
「ああ」
「リョウタはほんっっっっまアホやろ。ウチやなかったら、ドン引きものやで?」
「津田やからやって」
「まあ、それも今更やし。改めて、よろしくな」
「ああ、こっちこそ、よろしく」
こうして、無事に、プロポーズは成功したのだった。
果てさて、こいつとの人生、これからどうなることやら。
でも、きっと、なんとかなるだろう。
なんせ、お互いに少し無理してでも、繋がり続けた関係だ。
もう一人の親友も含めて、一生続くだろう。
二人で幼馴染とは何だろうと考えてみた 久野真一 @kuno1234
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