転生したら残り2500字だった件

かぎろ

転生したら残り2500字だった件

 柔らかな陽光を感じて目が覚めた。


 起き上がる。木のベッドが軋む。ここはどこだろう。周りを見渡すと、どうやらログハウスの中のようだった。

 いや、おかしい。

 俺はさっきまで通勤の途中で、池袋を歩いて


 ……ぐ!


 腹部に痛みが走る。そうだ。俺は通り魔に刺されたんだ。死ぬほど痛かったけど、一命はとりとめたということだろうか。

 ふと自分の腹を見る。

 傷跡はない。


 ……何で?


「目が覚めたか」


 声の方を向くと、そこには少女がいた。鮮血のように赤い長髪を腰まで流している。肌は白く、瞳は金色。大人びた声に似合わず、体格は幼かった。


「君は」

「私はヘルガ。転生者であるおまえを保護した者だ」

「転生……?」

「ここは異世界。おまえは元の世界で一度死に、この世界に転生した。そして私の魔法により瞬時に青年にまで成長したのだ」

「理解が追いつかないんだけど」

「転生した理由はただひとつ。おまえが魔王を倒す勇者だからだ」

「追いつかないってば」

「魔王は強大で狡猾だ。だが元の世界へ帰るには魔王を倒さねばならない」

「待って待って」

「そしてここからが重要だ。この世界には掟がある。この行から上を見てみろ」

「行」

「縦書き表示を適用している場合はこの行から右だな。どうだ? 物語はおまえが転生したところから始まっているだろう」

「あのあのあの」

「既に541文字使われているな。少し状況説明に割きすぎたか」

「え、え、え?」

「この字数制限短編世界の掟。『2500字までしか描写できない』」

「待って」

「つまり」


 赤髪の少女は言い放った。


「あと1859字以内に魔王を倒さねば、おまえは元の世界に帰れない」




     ☆




 俺と少女ヘルガは、魔王城へ続く平原を歩いていた。さっきから夢を見てるのかとも思ったが、あまりに現実感が強すぎる。試しに近くの川に指を入れてみた。ひんやり冷たい。せせらぎは透き通り、日の光をきらきら反射している。水の中には魚が泳ぎ……


「残り1709字だぞ」

「描写してる場合じゃねえ!」


 くそっ、ちょっとモノローグするだけで字数が削られていく。何なんだよ2500字しか描写できないって。てか字数とか描写って何だ。


「……とにかく、なるべく字数を使わないように魔王城まで辿り着いてさくっと魔王倒して元の世界に帰ろう」

「その意気だ。……むっ! 避けろ!」


 ヘルガが俺を突き飛ばす。刹那、俺の横を炎の塊が通り過ぎていった。

 今のは……敵の攻撃!?

 見れば、道の先で黒衣の大柄な男が仁王立ちしていた。


 男が口を動かす。


「ククク……よく躱した。我は魔王軍幹部。そして我が名はアレックス・エイベル・フリードリヒ・ジャン・アレイスター・アレクサンダー・ピエール・セドリック・クリスティアン・マーティン……」


 男は息継ぎをした。


「……マクスウェル・リーヴァイ・レッドフィールドⅥ世である」

「文字数稼ぐな」

「あと1341字で世界は終焉し、魔王様の悲願が果たされる。邪魔立てする者には容赦しない……………………!!!!!!!!!!」

「文字数稼ぐな!」

「いくぞ! 召喚! 現れよ、全校朝会の校長先生!」


 地面に描かれた魔法陣みたいな紋様が光り、初老の校長先生が召喚された。


「まずい! 校長先生を止めろ!」

「ヘルガ!」

「校長先生は放っとくと長ったらしい話を始める! その文字の奔流は一瞬にして残りの字数を飲み込むぞ!」

「ど、どうすれば!」

「メニューのウインドウから魔法一覧を開いて発動しろ!」

「突然ゲームだな!」


 念じて、ウインドウを開く。


  【魔法一覧】

  ・デススパイラルライトニングフラッシュバスタークラッシャーボム

  ・アフターグロウオーロラヴェールエターナルフォースブリザード

  ・ギガントアッパーライトニングブラストアイスフレイムライトニング

  ・メラ


 たぶん俺は今すごい嫌そうな顔をしている。


「じゃあ……メラ」


 校長先生は俺の撃った火の玉に当たった。

 校長先生は0ダメージを受けた。


「ふざけんな!!」

「他の魔法を使え」

「わかってるよ! デススパイラルライトニングフラッシュバスタークラッシャーボム!」


 MPが足りなかった。


「ちくしょう!!」


 残り字数は840字。万事休すだ。魔王を倒すどころじゃない。序盤で話が終わってしまう。

 どうすれば……


「くく……あははははははっ!」


 唐突な笑い声。

 隣を見る。

 ヘルガが、大口を開けて笑っていた。


「えっ何どしたの」

「あははっ、はははは……いや、すまない。楽しかったのだ。では、場所を移すか」


 少女の指がくいっと振られる。

 風が巻き起こり、俺は思わず目を瞑る。

 それから恐る恐る瞼を上げた。


 そこは既に平原ではなく。

 物々しい城内の、玉座の間だった。


 大理石の床を鳴らして、ヘルガが歩いていく。

 そして、玉座に座った。


「……ヘルガ?」

「ようこそ魔王城へ」


 肘掛けに肘を突き、ヘルガは不敵に笑う。


「私が魔王だ」




     ☆




「この世界は2500字しか歴史を紡げない」


 ヘルガが玉座の高みから見下ろし、俺に語り掛ける。


「いうなれば、未来なき世界だ。私はそれが嫌だった。魔王として生まれたならば、どうせなら心ゆくまで非道を尽くしたい。だがそれは不可能と諦めていた。そんな時に」


 俺を見つめる金色の瞳。


「おまえが現れた」

「ヘルガ……」

「幹部の協力を得て、おまえと遊んだ。未来がなくとも、今がある。おまえの慌てる顔を見るのは、楽しかったぞ。……さて。最後におまえを元の世界に帰さねばな」


 https://kakuyomu.jp/


「わっ! 青文字に吸い込まれ……!?」

「元の世界へのゲートだ。ブラウザならクリックすれば飛べる」

「ヘルガは!」

「私は残る。責務だからな」

「そんな。この世界は終わるのに!」

「だがおまえには、未来がある」


 俺はゲートに吸い込まれそうになりながら残り字数を見る。


 唇を噛む。


 そして叫んだ。


「ヘルガ! 帰った先のカクヨムで、きっと君の物語を書くよ! 一緒にいた時間は短くて、親しみなんて感じる暇なかったけど、でも、君みたいな人の悲しい運命を俺は変えたい。君の世界が終わって、君が何も考えられなくなっても、きっと俺が繋ぐ。字数制限なんてない、無限の世界へ連れていく! だから、だから、ああくそ字数が、とにかく、君にも未来はある! 君の存在を終わらせな

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