2話 長々と語ってるけど、よく考えたら作品名が答え
自分の腕を見てみれば、ツルツルで透き通るような色をしていており、
前世の自分の腕と比較してみれば、とても脆そうで、か細かった。
右手を空に透かして、指を動かしてみる。
動く。
やはり俺の手だ。
そのまま手を移動させて、髪を触ってみる。
サラサラとした感触。
髪の毛は黒髪でショートらしい。
前世の俺は髪を切るのを面倒くさく思っており、歩きスマホ野郎の従姉より長く伸ばしていたので、今の身体だと頭がとても軽く感じる。
右手で髪を触れば、その感触は頭に伝わってくる。
髪の毛を一本引っこ抜いてみる。
いった。
しっかりと痛覚もある。
毛をつまんだまま、目視で確認してみる。
黒い髪が一本。
つまんでいる親指と人差し指を離せば、毛はふわり、ふわりと自由落下する。
白い地面に落ちたかと思えば、すっと消えてしまう。
これが、俺の身体なのか。
前世で死亡してからこんなに不思議なことが起こっているはずなのに、全く動揺しない。
最早、「やれやれ、はぁ~(クソデカため息)」程度にしか思ってない。
前世の記憶を持ちながら生まれ変わったこと、母親が魔法を使って料理をしていること、
この純白の世界(仮)では女子になっていること。
そして、この状況を当たり前のように受け入れていること。
異世界系のアニメの見過ぎで、現実と非現実を混同するようになっていたのか。
驚き疲れてしまったのだろうか。
分からない。
だけれども、あまりにも冷静過ぎる自分が、そこにはいた。
--------
座っていても一面真っ白の景色しか見えないので、歩き回ることにした。
前世で放送中だったアニメのop曲を、気分を晴らすかのように鼻歌を歌う。
死んでしまったせいで最終話まで見れないのがとても悔やまれる。
まあ、最終回で暴走した主人公をヒロインが泣きながら調理して終了とかいうオチだろうな。
さて超今更な話になるが、この白い世界は生まれ変わる前に来た場所と同じ場所のはずだ。
だが、一体どんな場所なのかがさっぱり分からない。
俺は小さな脳みそをフル活用して、自分なりにこの場所が一体何なのか考えてみた。
考え付いたのは以下の3つ。
というより、ただの、な〇う系のテンプレート。
①死後の世界説、②夢の世界説、③VR世界説。
まず、①の死後の世界だったら、異世界転生したはずの自分がまたそんな場所に戻ってきたのか、理由が分からない(もしかしたら、現実世界で突然死した可能性もあるかもしれないが)。
次に、②の夢の世界説について。
現実世界では睡眠中だから、今見ているのは夢の世界。
単純な思考だが可能性としては自分の考えた説の中では一番可能性が高いと思った。
分からない部分があるとすれば、生まれる前にもこの場所に来ていたということを考えると、
母親の胎内にいた時間が睡眠中に当たり、夢を見ていたのかどうか、
それに加えて、夢の中で突然現れたオネエサンが何者なのかが分からない。
異世界転生小説的な発想になってしまうが、オネエサンが実は神様であり、
俺自身があの時に何か啓示を受けた、とか。
神様がイカツイオネエサン、ねぇ……。
ねぇ……。
うん。
そもそも、あの人、啓示と言えるような重要なこと何か喋ってたか?
(何か大事なこと喋ってた気がしないこともないけど、俺自身がパニック状態で何も聞いていなかった、が正しい)
次に③のVR世界説。
正直ネタで思い浮かんだものなのだが、一部の人にとってはロマンはあるような考えだろう。
今の、この男のロマンをかき集めたような俺の身体は、アバターのようなものということ。
いや。
そもそも、ナー〇ギアみたいなものを装着していないのに、
寝ると自分の意志と関係なくVR世界に接続されるとか、さすがにあり得ないだろう。
というか、脳に直接干渉されているみたいで怖すぎる。
もしかしたら俺が生まれ変わった世界は、そんなこともできるほど科学が滅茶苦茶発展していたりしたり……(何故か生まれ変わった世界の技術水準を、他の異世界転生系小説を基準に考えている俺である)。
ちょっと怖い可能性だけど、一応可能性としては残しておこう。
そうだ、話が戻ってしまうが、②夢の世界説について。
この世界が夢の世界説は置いておき、俺は全く違うもう一つの『夢の世界説』について考えていた。
いや、全く違うわけではなく、ここが『夢の世界』だという点は共通しているのだが、
それに加えて、ドレシア・ナーヴェルという俺自身ですら夢の中での創造物だという説だ。
誰の夢か、それは勿論前世の俺が見ている夢ということ。
もし、そうならば前世の俺はまだ生きているということで喜ばしいことだろう。
纏めて、簡単に言えば「すべてが夢オチ」っていうやつ。
……すべてが夢オチ、か。
俺の前世……
スマホ野郎の従姉妹がいたのも、交通事故で死んだのも……
俺自身を育ててくれた前世の母親も……
歩いていた足を止める。
生まれ変わってから数日間、時折そんなことを考えていた。
あれは、もしかして全て夢だったのか、と。
最近、俺が生きたはずの19年間が、ただの作り物の夢のように遠く感じるようになっていた。
哲学者ぶって『自分の存在』について考えたことがある。
結局、異世界転生した先輩の蜘〇子さんと同じく、『我思う故に我在り』と考えればいいという結論に達していた。
それこそ、自分が一体何なのかなんて、考え続けたらキリがない。
『水槽の脳』みたいに、考えるだけアホらしいことのはずなのだ。
でも、今の俺は、異世界で生まれ変わってからそんなくだらないことばかり考えている。
本当の自分は、何処にいるのか。
前世の俺、ドレシア、そして自分自身の存在に不安を持って胸を揉んでいる今の俺。
これは全て俺自身なのか。
考えても無謀なことのはずなのに、考えてしまう。
何故か、考えてしまう。
無駄なことなのに、何故考える。
ああ……
そうか……
本当は、この『夢』のような現実世界が受け入れることができずに、
この数日間で自分でも気づかないほど心が弱っていて……
そして、前世の大切な記憶が消えてしまわないか恐れ……
寂しがっていたのかな……
俺が夢の中だけ美少女転生した件について~とりま頑張って生きていこうと思います~ 悠 @haruka_yuu
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