命が無価値なこの世界

ミドガミ

プロローグ


 ぼくらの世界はもともと、魔法のみが発達していたらしい。

科学が発展し始めたのは、ぼくらが死ななくなってからしばらく後のことだ。


 ある日、今までの人類で例を見ないほどの巨大な魔力を持った者が生まれた。

俗に言う、勇者と呼ばれるものだ。


 その頃の世界には魔王がいて、魔物がいて、人々の命を奪い、土地を荒らして回っていた。


 今じゃ、魔王も魔物も死ななくなったから存在意義を失っているけどね。

良き隣人になっているよ。


 話が逸れたね。


 で、まあなにが起きたかと言うとね。

願ったんだ。

勇者が願った。


 死なず、殺されず、苦しまない世界を。

永遠の平穏と繁栄を。

誰もが手に手を取り合える、理想郷を。


 魔法の原点は願いだっていうのは知ってるよね?

そうさ、勇者が願った。


 類を見ない、古の言葉を借りるならそうだね、神の如き力を持つ勇者が、真摯に心の底から願った結果。


 全ての命は不変となったんだ。


 そう、知っての通り。

ぼくらは死ななくなったから、命に価値は無くなった。虫も獣も人類も。


 全ての命は等しく無価値だ。


 だってそうだろう?

いくら傷つけようがすぐに痛みを感じる間も無く治る。

獣から肉を取ろうとも死ぬことはない。

丸ごと食べても、その場で復活。ぼぼーんとね。


 傷つけあっても無意味だから、争いは無くなった。

食べる必要も、寝る必要も無い。


 ただ永遠を生きるだけ。

ある時、みんな生きることに虚しくなったんだ。

だからぼくらは、命の価値を取り戻すため。


 死を求めているんだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

命が無価値なこの世界 ミドガミ @green_lion115

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る