境港のとある妖怪の密かな欲望
美ぃ助実見子
ケケケの鬼次郎の思惑。
ここ『鳥取県』で、風雲急を告げ様としていた――。
丑三つ時、『境港市』にある、『水木しげるロード』に佇む一人のみすぼらしい少年が発端となるようだ。
幼い面立ちの半分をボサボサの髪で覆い隠し、紺の長袖シャツと半ズボンの容姿。下駄を履き、ボロボロの唐草模様のちゃんちゃんこを羽織る。
何処かで見覚えがある容姿だが、それもそのはず。
人間と妖怪の間に生まれたハイブリットのかの高名な妖怪少年に憧れを勝手に抱く、妖怪少年(自称)だからだ。
彼の名は、
鬼次郎が何故そこに居るのか、それはどうでもいい話だが、分かっているのは頭頂部の髪の毛が妖気を察知して、ピンと二本だけ逆立っている事だろう。念を押す。決して、アホ毛では無い。悪まで、妖気を察知しているからだ。
鬼次郎は、鬱陶し長い髪の隙間から双眸を覗かせ空を見上げ、呟く。
「父さん、妖気を感じます……」
「なんじゃ、鬼次郎」
鬼次郎に返答したのは、長い髪の毛から顔を覗かせている藁人形。
藁で編まれた大の字の人形を何故か髪に括り付けている。が、薄っすらと妖気を醸し出しているは、言い知れぬ妖怪所以だからだろうか。
決して会話を成立させているのは、鬼次郎の腹話術の所為では無い、その事だけは確かなような気がする。
「父さん、なんじゃ、鬼次郎……っといけない」
鬼次郎は声を細めつつ、軽快な甲高い声音と幼い少年の声音を声優の如く瞬時に使い分ける。
「父さん、僕の妖怪アンテナがビンビン反応するんです」
「何を察知したんじゃ」
「ええ、天空からこんな声が聞こえてきます」
『コーヒー牛乳ごときで騙されん! 地球に増援を派遣した。
チャラチャンチャン、チャラララ〜〜〜ン!
つきましては、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人からの地球の同士へメッセージをお届けいたします。
地球人よ! 我らを刮目せよ!
母星より、さらなる増援を呼んだ。侵略を開始する。
心して奴隷となれ!
加えて言う。
我らに賛同の意を示す者は、各地で蜂起せよ!!』
「そんな内容なんですが。父さん、僕、この話に乗っかってみようかと考えています。どうでしょうか?」
「いいんじゃねぇ――乗っちゃいなよ、YOU!」
鬼次郎は藁人形を弄繰り回し、右手でガッツポーズを作らせると、鼻息を荒げて興奮しているようだ。
「そうですか、父さんも賛成ですか……」
「いいんじゃねぇ――やっちゃいなよ、YOU!」
「父さん、そんなに興奮を露にしなくても、僕にはその気持ちがヒシヒシと伝わってきますよ」
「いいんじゃねぇ――境港の妖怪の底力を見せつけるチャンスだし、戦慄する人間どもをこの目にしかと収めようぜ!
あわよくば、テレビで注目を集めそうじゃねぇ。CMチャンスだしぃ、上手く行けば懐も潤うしぃよ、YOU!」
「僕も、そう思います。では手始めに、人間どもに僕が催すマジックを境港で大胆に披露して上げましょうかね」
鬼次郎は、興奮する余りに藁人形を力強く握りつぶして何度も身体を捻じらせると、興奮を藁人形の親父に伝えているようだった……。
が、藁人形の親父の扱いが至極酷いのは、やっぱりただの人形所以か、真実は分からないが触れない方が彼に取ってもいいだろう。
鬼次郎は、懐からスマホを取り出すと、何処かへ電話をかけ始める。
「境港の猫又の宅急便屋さんですか。ああ、僕です。実は頼まれて欲しい事が……。
ええ、心配しなくても、お金はありますとも。
『砂場喫茶』で潤っているので、大丈夫ですよ。
何なら、『鳥取砂丘』の『ラッキョウ』で一儲けした金もありますし……大丈夫です。
あなた方にも損はさせません……運ぶ物はどう処分してもかまいませんから……。
ええ、あれを動かして例えバレても、金の力で何とかしますよ……もしもの場合の責任追及先は妖怪では無く、一切合切、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人へ行くでしょうからね。
好都合な金儲けのチャンスが僕達に巡って来たものです。ケケケ」
鬼次郎は、不気味な笑みを浮かべて通話を終えるとスマホを懐に戻して、鼻歌まじりで悠々と水木しげるロードを歩む。
「ケッ、ケッ、ケケケの毛~。
朝は、スマホ片手で、妖怪こき使い。
かなしいな、かなしいな。
おばけにゃ学校は無くても、金を稼がなくては、いけないんだ。
ケッ、ケッ、ケケケの毛~。
みんなで稼ごう、お金、お金、ザクザク」
きっと鼻歌の内容は、こんな歌詞であろう。
鬼次郎は闇夜に混じるようにして姿をフッと消した……。
翌日の早朝、水木しげるロードは、騒然としていた――。
水木しげるロードに展示されていた数多の妖怪の銅像が忽然と姿を消したからだ。
口をあんぐりと開けて、驚愕する商店街の人々。
それはただ単に銅像が紛失した訳では無く、銅像の代わりにラッキョウが添え置かれ、そしてゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人の魔の手は此処にも伸びた。と言わんばかりに、肥前さが県産のコーヒー牛乳の瓶が置かれていたからだった。
謎めく不可解な行動は、瞬く間に波及効果を齎し、マスコミを賑わせ、ゾン・ヴィラン・ド・サ・ガ星人が起因の不可解な境港の窃盗事件として、テレビを伝って全国的な話題となっていた。
密かに鳥取県の観光資源が潤い、そして鬼次郎の思惑通りに彼の懐があったまったのは、言うまでもない。
消えた銅像の行方は……それはご想像にお任せ致します。恐らく、彼らに手に渡っている事でしょうけどね。
(了)
本作品で少しでも楽しめたのなら、幸いです。
詳しい企画内容は、
雨 杜和orアメたぬき様の『【爆笑】都道府県オープン参加小説2:宇宙人侵略その後、各都道府県はどうなっている。』
https://kakuyomu.jp/works/16816452219500906547
をご覧に成ってください。
境港のとある妖怪の密かな欲望 美ぃ助実見子 @misukemimiko
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