画用紙

@kakuzatou22

第1話完結

 学生は、楽しそうでいいよねという風に言われる。確かに挑戦しようと思えば、できる時期なのだろうと感じる。仲の良い友達のタカキは、教師になるんだって言って、この感染症による自粛中でも試験勉強を続けているらしい。休みに入ったが何かできるというわけではないこのご時世、やりたかった事も中止になってする事はできない。暇になって柄でもなく絵を描く事を始める。自画像や風景画など色々アイデアが浮かんできて、何を描こうかと考えるも何がいいか分からない。そのうち腕枕をして漫然と何か描いていた。

 夜も更けてきた頃、何時スイッチを入れていたのだろうか、ラジオから流れてくるとあるニュースが耳に入った。「たった今東京上空に未確認飛行物体が発見されて、騒然としています。」そう聞いてパソコンで見てみると、ネットニュースで何か人のような何かが空を飛んでいる様子が写っている。「え。なにこれ。」みたいに驚きながら、意外とそんなこともあるのかと受け入れるのは、自分でも驚きだ。空を飛ぶか、安直に空を飛んでみたいと思って空を飛ぶ自分を、目の前にある画用紙に書き込んでみた。結構うまくかけたなんてことを考えていると、体が軽くなって宙に浮かんだ。「ん?これ今浮いてる?」と急な展開に驚きを隠せない。そんな展開に空を飛ぶ事をやってみようと考える自分がいた。窓を開けて、飛び出してみる。空を飛ぶ事が出来た。こんなことが出来るのはなぜなのか、「もしかして絵を描いたことと関係があるのか。」帰ってみて、今度は、空を飛んでお腹がすいたので、ドーナツを食べる自分を描いた。そうすると本当にドーナツが出現した。食べてみると普通に美味しい。どうやら先ほどのラジオで言ってた人も絵を描いたら飛べたのか?少なくともどうやら目の前で絵を描いたことによる超常現象が起こっていることは定かなことだ。ここまで来たら「なりたい自分」になれるんじゃないか?そう思ってネットの画面が目に入った。凄い。自分が気付いた位なものもあるが、色々な町で怪奇現象が起こっているようだ。巨大ロボや妖怪、銀行強盗、アニメのヒーローみたいなものもいるようだ。

 よし。自分も好きなキャラクターでも書いてみるか。手元にあった黒のボールペンを持って、書き出す。魔法や超能力とか自分が思いつく限りやってみたいことをやった。街中は、好き勝手暴れている奴もいたから、目に余る。そこで、超能力で今まで詐欺でだまし取られていた金をもとある口座に返したり、食べ物に困っている人には、食べ物をあげた。

 でも数時間経った後、思いつかなくなった。あと何がある?考えても出てこない。「あれ?自分って将来何になりたかったんだっけ?」子どもの頃は、医者とか言ってたっけ?そう思うと、何でも叶えられる神に近い物が目の前にあるのに、どうすればいいんだ?取り敢えず、そんな苦しい心境を埋め直す様に、食べたいものを書き込んで食べる。そんなことをしているうちに余白が無くなってきた。本当にやりたいことがもっとあったはずなのに、なんだろう。思いつかない。今まで漫然と生きてきた自分に何とも言えない気持ちになって、情けなくなる。多分、空を飛ぶなんて死ぬときになったら、どうでもいいことだろう。もう残りの余白は、数ミリだ。何でもっとちゃんと考えて、人生を考えて判断しなかったんだ?もっとちゃんとした優先順位というものがあるはずなのに、もうそれは、できない。「あ!そうだ。友達だ。ウイルスが広まって会うときは、ほとんどない。」そう思って祈る気持ちで友達を描いた。その時、携帯が鳴った。どうやら仲の良い友達でタカキの家で集まってゲームをやったり、パーティーしているようだ。「来ないの?」って聞かれて、泣きそうな声で「すぐ行く!」って答えた。「ウイルスは?」って聞いても、「何それ?」といった感じだったので、どうやらウイルスもない世界になっているようだ。友達の家でバカ騒ぎをやった。いくら時間が過ぎただろうか。明け方近くになり、みんな帰るようだ。タカキの家から近かった俺は、タカキと一緒に片づけをしていた。

 タカキに聞いた。「何で先生になりたいの?」

 そいつは、「教育が世の中を変える大きなカギだから。まあよくわかんないけど。」と言った。

 俺は、「いや、俺、何も考えてこなかったから、何もないんだよ。」

 タカキは、「何かになりたいのが決まってる人なんて、そんなにたくさんいるものじゃない。やってみたい事、ワクワクする物を後悔しないようにやっていくだけなんじゃない。」

 そうか。思えば、俺は、外国語が好きで、ウイルスで留学はできなかったけど、いつか必ず行きたいな。それだけじゃない。俺は、画用紙の力を困ってる人のために使っていたじゃないか。将来、警察官にでもなろうかな。そして気分を入れ替える為に、目を閉じて深呼吸をした。

 目を開けた。朝だ。袖が涎で濡れている。やってしまった。寝ていたようだ。目の前の画用紙には、真っ白な余白が広がっていた。「え?夢だったの?」と感じるよりも「なんだ。人生これからじゃん。」清々しい気分でペットボトルの中に入ったサイダーを飲んだ。炭酸が抜けて甘ったるい味。今は今しかない。気を抜いていると何も始まらない。そう思って、ラジオをつけた。ラジオのパーソナリティが意気揚々と宣言する。

 「それでは、皆さん。今日も一日頑張っていきましょう。」

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

画用紙 @kakuzatou22

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ