第4話 誰にも相談できない?

 お客様のお話を伺った後、私はお店に戻りました。休憩時間を少し過ぎていました。


 「ああ、良かった。さやちゃんが帰って来てくれて。大丈夫だった?」

 店長と先輩方が心配そうにしていました。奥様もレジカウンターの中からやはり安堵された表情を向けられました。


 「はい。大丈夫です。ご心配おかけしました。有難うございます。今、直ぐに交代しますから」


 夕方になって、お客様が次第に増えてきていました。私も早く入らなきゃ。



 「ねえ、さっきのお客様でしょう? ずっとコーナーを彷徨ってたの。一体全体どんな人だったの?さやちゃん勇気あるー!」


 休憩室で交代する準備をしていると、先輩が戻られて来ました。


 ……言えないわ。個人情報ですものね……なんて応えればいいの……?


 とりあえず、当たり障りなく、不自然でなく、納得して頂ける……あああ、私には難しすぎるわ。とりあえず、とりあえず?


 「はい、あのぅ、あの人は、まだコミックス化されていないのをご存じなかったみたいなんです。原作本も詳しく覚えてらっしゃらなくて……ですから、お読みになった雑誌をもう一度確認して頂ける様にお話しました……」


 大丈夫? 心臓がばっくばっく言っていました。

 「ふぅん。そうなんだあ。だからあんなにぐるぐる回って見ていたのかぁ」


 私やった? やりました!

 「……はい。そうらしいです」


 「……それにしちゃあ、やけに長くなかった? お話が?  」


 「……えっ……? 」

 まさか、納得して頂けないの……?


 先輩は、ニヤニヤしていました。

 「なぁに? さやちゃんは、ああいうタイプが好みなわけぇ? 」


 「……え……? 」

 好み? 好みって。



 ……食べ物の好みではないですよね、当たり前ですよね。

 タイプ? って好きな人の事ですよね……。

 私は眉間にしわが寄ってしまうほど考えてしまったらしく、先輩はつまらなそうでした。

 「あ、なぁんだ違うの? てっきりあのタイプの人が好きなのかと思っちゃった。ゴメンね、呼び止めて。ハイ、しっかり守って稼いでおいで」

 「……はい?」



 あの背の高い、ええと……お名前を伺ったから……あ、忘れちゃった。後でメモ帳を見れば分かるけど……。背は高かった。ええと、お顔は? 

 お話の方に気を取られていましたので、しっかりと彼のお顔のパーツを把握出来ていませんでした。


 それよりも、参考になる様な本が見つかるかしら? と、頭を巡らせていました。


 先輩方にアドバイスを頂きたかったけれど……内容が内容だけに、相談出来ないよう……冗談のつもりでもありません……はあ、どうやって探そうかな……?


 は! いけない。 また向こう岸に現実を渡らせてしまいました。


 気を引き締めてお仕事をしましょう。


 それからは、色々と勉強が始まりました。


 ……お仕事なんですけどね。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

杉﨑沙野花 「縁結びは義弟と従兄弟でした 永盛愛美 @manami27100594

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る