第4話 謎は氷山の一角で溶け始めた
おかしい。俺は基と葵について何か参考になる本でもあればと「本屋のBL コーナーへ行け」とアドバイスをされたから出掛けたまでだ。
なぜ、ファーストフード店でその本屋の店員さんとコーヒーを飲んでいるんだ? しかも、身の上相談よろしくかいつまむどころか、全部ぶちまけてしまうという俺。
この初対面の女の子に。大丈夫か、俺。この子、少々頼りなさそうじゃねえか? 外見と内面は違うのか? 本屋の店員やってるくらいだから大丈夫なんだろうが……。
いざ、ぶち明けかましたはいいが、お互い言葉が出て来ない。重かったよな? 話の内容がさ。
そのうちに彼女はピンと伸ばしていた上半身を前屈みにさせて、小声でコソコソと俺に話しかけて来た。俺もつられて狭いテーブルの上に両腕を乗せて、だいぶ背中を丸めて彼女と向き合った。
……なんか、近くねえ? 俺ら怪しくねえ……? でかい図体の二人が前屈みになってると、何だか危ない奴らと思われるだろうけど。彼女が真剣な顔をしているから、有難いと思って余計に突っ込めない。
「……え……? お客様の、弟さんと……? 」
「そう。弟と、奴と同い年の従兄弟なんだけど……」
彼女が気を遣ってヒソヒソ話してくれるもんで、俺もヒソヒソと。
「なんか、二人ともゲ、……ゲイだったらしくて。二人していきなり家族に発表したんだよ。二年くらい前になるかな?」
発表なんて生ぬるい物ではなかったな。ぶちかまされた、だな。
「……カミングアウトなさったのですね? 」
「あ、そう言うらしいね。俺は最近知ったんですよ。それ。」
もう冷めてしまったコーヒーを飲む。口の中が乾いているのは緊張しているせいか?
彼女は、だんだん難しい表情になっていく。やっぱ初対面で話す内容じゃねえよなあ。
「……申し訳ありません。私でお役に立てるならば、と思いましたのですが……」
えっ、ヤバい!今は彼女しか頼れそうな人がいねえ。ここは何とかして何とかしてもらいたいんだ!詳しそうだし、正直にぶちかましたし!
「 あ、あのっ、あなたは詳しそうなんで、ぶっちゃけ話したんだけど。なんか参考になりそうな本とか、無いですかね?」
藁をも掴ませてくれ!
彼女もぬるくなったコーヒーを飲みつつ、考え込んでいる。悪いな。こんな客で。
「それで……『参考書』と仰ったのですね」
「そう! そうなんです! 友達が、そこへ行けば沢山種類があるから行ってみろ、って」
ここまで話して後には退けない。なんとかして糸口をたぐり寄せたい!
彼女の視線が彷徨っている。目が泳ぐってこんな感じなんだな。
「あのぅ……どのような事を参考にしたいのですか。えっと……差し支えなければ、教えて下さい」
おっ? ああ、そうだよな! 参考ったって、色々あるもんな。
「あー……、そうですね。アイツらの日常にどうやって馴染んでいけるか解れば最高かな? 」
ホント、アイツらが何を考え何を思いどう生きるのか? 俺の物差しでは計れない。てか、俺の辞書に無かった。『同性愛者の身内がいる人生』のワードが。
あれ。彼女が困惑しているみたいだ。範囲が広すぎたかな。
「日常……生活ですか……?」
もっと詳細に伝えるべきかな。
「そうですね。それがワケ判んなくなっちゃったんですよね。だから、アイツらとどう接触すればいいって言うか……なんか、自分の弟と従兄弟なんだけと……身構えちゃって。どうにかなんないかな、って悩んでる最中で」
世間話さえもぎくしゃくしそうだ。お互い気を遣っていると思う。
ん? もっと彼女の表情が暗く硬くなったぞ……ゴメンな。頼りなさそうなんて思って。
今はとにかく君が頼りかな。また別の人に全てをぶちかますのはちょっと……な。
「……私にご希望の書籍やコミックスが探せるかどうか、はっきり申し上げて自信が全くありません。申し訳ございません」
彼女は姿勢を正して、頭を下げた。
なんか悪い事をしてしまった気分だ。本音をいえば、食い下がりたい。
「……やっぱ、難しいですかね……」
この子は頼りなさそうだけど、なんか詳しそうだし何かしらの情報が手に入ると思ったんだけどな……。
まあ、自力で探すしかないか。こうやって、ちゃんと話を聞いてくれる人がいるって分かったし。専門コーナを教えてもらったんだ。欲はかくまい。
……俺も彼女もため息をついた。
俺は諦めかけた。……が、有難う、と伝える前に、彼女から申し出てくれたんだ。
もし、そんな参考になる物が目に付いたら、連絡するから連絡先を教えて欲しい、と……。
……っしゃあ!!
って、俺は喜んだ。
他意はない。無かった。
……無かったぞ?
杉﨑始 出逢いはBL コーナーで 永盛愛美 @manami27100594
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。杉﨑始 出逢いはBL コーナーでの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます