第3話 身の上相談していいですか?

 どれくらいタイトルだけを片っ端から読み込んだだろう。頭ん中がぐゎんぐゎんしてきた。タイトルだけじゃ、分からねえ……帯のやつに細かく書いてある文章を読んで見るか? 無いのは飛ばすか? そんな風に迷っていたら、知らない内に店員さんが横に近付いていた。


 「あのう……なにか、お探しですか? お手伝い、しましょうか? 」


 ヤバっ! 俺、もしかしたら不審者? ちょっとマジに集中しすぎたか!


 俺は素早くその子を見た。この店員さんは、女の子にしてはでかいけど、なんかおっかなびっくりに俺を見ている。

 

 探していることは、いる。

 「……え、あ……はい 」


 探しては、いるんだけど。


 「既刊ですか? 新刊ですか? 」


 え、キカン? 新刊なら分かるけど、全然わかんねえ……。


 「あ、いや、そうじゃなくて 」

 何がそうでそうじゃないのかも分からないが、ここは否定しておく。


 この店員さん、是が非でも協力態勢を解かないつもりか。

 「どなたかに頼まれました? それとも、プレゼントですか? タイトルを教えて頂ければ、こちらでも」


 いやいやタイトルどころかマンガか文庫本かも分からん!


 俺は彼女の言葉を遮った。

「すみません。そうじゃないんです……ええと、なんて説明したらいいのかな……? 」


 誰か俺に教えてくれ!


 「あのぅ、何かをお探しなんですね 」

 そうそう!そのが分からないんです!

 「そうなんです!分かって貰えるかな。探してはいるんだけど、その……説明するには一言では無理で、でも見つけて読みたくて……でも見つけ方が分からなくて」


 一言以上あっても説明は無理で!完全にお手上げだ……。


 この店員さんは、良く見ると、すらっとしていて背が高いけど、雰囲気がぽやんとしていて、俺が今まで出会った『でかい女の子』の中では一番威圧感が無かった。この店員さん、大丈夫なのか? な不安定なオーラがねえ? ああ、そういうオーラがあるっちゃあるのか。

 

 なんか考えてくれているらしい。餅は餅屋で任せるか?

 彼女は色々想像してくれたらしい。


 「どんなテイストをお探しですか?」

 へっ? テイスト?

 「ソフト系? ハード系? 」


 え? 最近の本屋はコンタクトレンズも売ってんのか? ああ、読書し過ぎて目が悪くなるもんな。

 「え、コンタクトはしてないけど? 」

 俺、視力はいい方だ。


彼女は訳の分からん質問をしてくるな。


 「学園もの? 社会人ものですか? それとも芸能界ものみたいな特殊性のあるジャンルですか? 」


 学園? 学生ではある。あと四カ月もすればあいつらは卒業するが、まだ高校生だ。

 「えっと……弟はまだ高校生なんだけど……」

 「えっ? 弟さん? 」

 彼女は怪訝そうな顔をした。あ、そうか、あいつらに必要な本だと思われたか?

 

 「あの、読むのは自分なんですけど……弟が関係していて……」


 彼女は更に怪訝そうな顔をした。俺、なんかまずい事言ったか?


 俺達は不自然な会話をしてないか? なんか妙な感じがするのは気のせいかな。


 「年下ウケですか、それとも責め?」


 は? ますます分からん。ウケ狙い?責める? 責任転嫁かな。

 「年下にウケがいいのなんて有るの? 責めは何? 責任追及でもする関係なんですか? 人間関係が詳しく書かれている方が参考になるんですけど」


 ……伝われ。伝わってくれ。


 「参考? 」


 そう、参考!参考書希望!あと一押しだな!

 「はい、参考書がこのコーナーに有ると聞いたもんで、探してみたんですけど。なかなか難しいですね」

 ……あれ、ダメか? 悩んでいる感じがするな。

 

 彼女はふっと視線を逸らした。

 それまでは俺達は真正面で向き合って話していたんだ。変な店員と客だな。


 彼女は微妙な笑顔でこう言った。


 「少々お待ちください」 



 ……そして、その後彼女の休憩時間を頂いて、詳しく説明する羽目になったのであった。

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