1章

第2話 1-1 本に囲まれた日常

早朝のまだ空が薄暗い時刻、一人の少年は本に埋もれながら、床に寝そべっていた。少年の周りには積み上げられた本の山と、近くには淡く光るランプがある。


「また、やってしまった‥‥寝る時間がなくなった。」


あーあ、と息を吐いて呟く。気付いたら夜から早朝にかけて本を読みふけっていたのである。一度本を読みだすと、読み終えるまで集中してしまうことが悩ましく思う。


「この調子だと明後日まずいよなー‥‥‥あ、もう明日かー」


一瞬、明るくなっていゆく空を窓に見て昼夜逆転を考えるも


(‥‥‥明日早く起きれば問題ないし、今から寝よ)


少年はまだ明日まで時間があるだろうと、今から寝ることにした。ランプの明かりを消し、本をずらして就寝スペースを作る。身体を横に腕を枕にして寝る体制をした。意識が遠のくのを感じながら静かにしているとーーーー


ドンッ!ドンッ!ドンッ!っと扉を叩く騒がしい音がした。


「おーい!ルカ!寝てんのか!おい!!!」


 いきなり朝から大声が響き、少年ルカ・スィエーナの眠りを妨げる。さらに続けられるモーニングコールに耳を塞いで嵐が過ぎるのを待っていたところ、隣の部屋から出てきた別の少年が騒がしさに文句をつけた。


「うるさいぞ!アルバート!今の時間帯は大半の人は寝ているぞ!俺まで起こしにきたのか?何考えてるんだお前は!」


アルバートと呼ばれた騒がしい少年は、一度驚いて見せたがさらに顔を明るくした。


「そうそう!ちょうど良かった!フィル!お前も起こそうと思ってたんだよ!手間が省けた!!!」


扉の前で口論している二人を他所にフードをかぶって、壁の方に身体を向ける。


(そのまま帰ってくんないかな‥‥)


淡い希望を願いつつも現実を思い知らされてゆく流れになって来ていた。


「アルバート!お前部屋に戻れよ。迷惑だぞ、あとで出直してこい!」


時間にうるさく常識人のフィルがアルバートを返そうとする。


「お前!明日何の日かわかってんのか!?新学期だぞ?色々と準備があるだろうが!だから朝早く起こしに来てやったんじゃん!」


そう今日は新学期一日前なのだ、だからこそ今日という時間を大切にしたいと思っていた矢先の出来事だった。ここは寮の一室で両隣は現在言い争いをしているフィルとアルバートの二人だ。平和な春休み最後の日となるはずだったのにな....ルカはそう思いつつ、なかなか止まない口論に苛立ちを覚え始めた。


「明日から新学期なことくらい生徒なら誰でも知っているぞ!もちろん準備も万全だ!まさか‥‥お前‥‥‥」


新学期に向け早めに準備を済ませていたフィルが堂々と答え、もしかしてこいつ‥‥と疑問から確信へ顔が変わる。


「フィル!この通りだ!!!」


ダンッッ!!!!!!っと床へ両手と頭が同時に着地する音が聞こえた。直接見なくともわかるキレイな音だった。


(あいつ準備サボったな‥‥‥)


 自業自得だと思い目を閉じる。

一方、土下座されたフィルは冷ややかな目でアルバートを見つめていた。いや、見下ろしていた。


「あれだけ時間がありながら‥‥お前‥‥‥何にもしていないのか?」


アルバートはブンッブンっと頭を縦に幾度もふり、己の罪を認める。


「ハァーどうするかな‥‥‥」


フィルは困ったようにため息をつく、前日で一人では到底準備は間に合わないだろう。見捨てても良かったのかもしれないが一応一年間苦楽を共にした仲だからと悩む。


(このまま動きそうにないんだが‥‥いつまでうるさいんだよ)


(そうだ、良い事思いついた!)


ルカは目の下にクマを作りながら、不敵に笑い条件付きで協力することにした。鍵を開け、二人の前に顔をだす。


「おはよう二人とも、話は聞かせてもらった。アルバート、俺たちに手伝って欲しいんだよな?俺に良い提案がある。」


フィルはよろしくなさそうな案が出そうだと感づいた。

何だ?いい案ってと早く聞きたいと顔に書いてある彼に勿体ぶってわざと遠回しに言ってみる。


「俺とフィルが手伝っても間に合うかどうか‥‥だからなぁ体力使うし頭もなぁ使うよなぁ?お腹減るよなぁ?」


つ、つまり?とわかってなさそうな顔で聞き返される。


「鳥のバラバラ亭」


街で一番有名で一番美味しいと噂される料理店の名前をだす。ついでに価格が高い。その瞬間、全てを察し逡巡し口をパクパクさせている。


「どぉすんだよぉ?んん?アルバートくぅん?」


我ながらにかなりゲスい顔をしている。アルバートが春休み中、遊びまくってお金がないのも知っていた上で持ちかけているのだ。フィルはというと、こうなる事を視野に入れていたかのようにやっぱりか、みたいな顔をしていた。

ここでフィルが、アルバートに助け船を出した。


「流石に僕の分は払わなくて良い、ルカの提案を呑んで間に合わせることにした方が得策じゃないか?アルバート?」


アルバートはおそらく、自分のサイフと準備不足による罰則を天秤にかけ、答えが決まったようだった。


「わっわかった!奢るから!手伝ってくれ!!!ルカ!フィル!頼む!!!!!!」


こちらとしても、寮の飯はそろそろ飽きてきた頃だったので良い機会だった。それに籠って本を読むのは苦痛ではないが、街へ出かけるのは一週間ぶりなので良い気分転換になるだろう。


「よし!じゃあ早速分担して取りかかろう!の申請は自分でしろよ!俺は街へ買い物にいく。」


「ルカが街なら僕は先に庭園に行ってくる。アルバートは朝イチで写本を申請できるよう申請書を管理塔で書いておくんだぞ!受付が始まったらすぐ提出できるようにな!」


「すまねぇ二人共!!!絶対間に合わすから!」


待ち合わせは日没後、鳥のバラバラ亭を目的地にして3人は一斉に駆け出した。

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ペンは剣よりも強い、そして本は命よりも重い 春澤 三輝 @Miki_Harusawa

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