牟礼病院にて

ツヨシ

第1話

高松市に古い病院がある。

大正元年に建てられたという築百年以上にもなる病院だ。

住宅地にあり、わりと大きな病院なのだが、総合病院ではなく個人で建てたものだ。

廃病院になった後、当たり前のように心霊スポットになった。これは行くしかないだろう。

行ってみると見事に歴史を感じさせる外観だった、

白く塗られた木造瓦葺きの建物。

中に入ってみると、内部はけっこう荒らされている。

やんちゃなやからが暴れたのだろう。

たとえ荒らされていても、その時代でなければ作られないデザインや漂う雰囲気は、見事に大正ロマンにあふれていて、むしろ文化財として保存してもよいのではないかと思わせた。

カルテを持ち出すと看護婦の幽霊がものすごい勢いで追いかけてくるという噂があるが、カルテなどどこにもなく、おそらく後付けの作り話なのだろう。

廃病院にはよくあることだ。

綺麗な外観と中の荒れ具合を見れば、幽霊なんかよりも生きている人間のほうが余程面倒だと思える。

様々な感慨を持って病院を歩いていると、ふと中年の女が窓の外から俺を見ていることに気がついた。

近所の人だろうか。

しかしその嫌悪感を覚えるほどのにやついた笑いは、とても近所の人とは思えなかった。

無視してそのまま院内を歩き回った。

もうそろそろと思い外に出ると、あの女が立って俺を見ていた。

そして話しかけてきたのだ。

「ここに入ると呪われるわよ。でもこの私があなたのために特別にお祓いしてあげるわ」

その声、口調、その表情は、吐き気をもよおすほどに不快だった。

「けっこうです」

まだなにかを叫んでいる女を振り払うかのように、俺はその場を後にした。


次の日、俺が自分の家を出ると、どういうわけだかわからないが、驚いたことに昨日の女がそこにいた。

そして言った。

「あなた、呪われたわよ。でもこの私があなたのために特別にお祓いしてあげるわ」

ほんと、幽霊なんかよりも生きている人間のほうが余程怖い。


       終

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牟礼病院にて ツヨシ @kunkunkonkon

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