笑って許して(許して笑って)
溜め息の後に疑問を口にしたきり、ヤマトはその口を噤んでしまった。
「まあいいんじゃないの?」
リンは、あっけらかんと言い放つ。
「アンタが人でなしなのはわかってるし。それでも少しの良心を持ってればいいんじゃない? 大体、自分が人間かどうかなんて考える人間はいないわ。考えるから、自分が人間じゃないなんて考えが湧くの。何も考えず、そのまま生きてりゃアンタは十二分に人間よ」
ヤマトは呆れたように大きく溜め息を吐き、ベッドに倒れた。
「話は終わりだ。出ていけ」
「その口をどうにかしろ!」
肩を怒らせてリンが立ち上がる。部屋のドアの前に立ったところで、ヤマトが呼び止めた。
「お前がずっとそばにいたことはわかっていた。恐らく、お前がいてくれなかったら俺はもう二度とここには戻ってこられなかっただろう。それと、さっきの言葉、悪趣味馬鹿女らしいくだらん考えだが、割合気に入ったぞ」
小さな笑い声が聞こえた。
「ありがとな、リン」
リンは驚いて振り向き、無愛想なヤマトの顔を眺めた。
「アンタ、今あたしのこと名前で――」
「うるさいぞ悪趣味女。さっさと出ていけ」
「だからその口をどうにかしろ!」
一声怒鳴ると即座に前を向いて部屋を出、後ろ手にドアを閉める。
何故だか、口からは止め処なく笑みがこぼれてくる。
リンは何だかよくわからないまま、小さく笑い続けた。イリスとクズリが訳知り顔でにっこりと笑い、プラーナが何を話していたのかを興味津々で訊いてくる間も、リンの笑みは止まなかった。
きっとヤマトも笑っている。誰もいなくなった部屋で、誰にも聞かれないように用心しながら笑い続けている。
リンには何故か、それがはっきりとわかった。
Mythos No.01 久佐馬野景 @nokagekusaba
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