第六話「好奇心」

行こうと言ったものの、どこに行けば良いのか考えていると

壁に描かれた絵がとある水族館の広告で有った事がわかり、とりあえず向かう事にした。

「水族館でいいんだよね…?」

「うん!どうやって行くの?」

無邪気な笑顔で目を輝かせ、早く早くと言わんばかりの仕草に可愛さが見えた。

(か…可愛い…。)

年齢イコール童貞歴である僕はある事に気づいた。

(まてよ…生まれてこのかたデートの経験がない僕が、こんな可愛い子と水族館デート!?初デートをこのハルさんと…!?)

考えれば考えるほど恥ずかしくなって来てしまった

「ねぇ、どうしたの?行かないの?」

「…///」

首を傾げる姿に悩殺されそうになる。

「なんでもないです…電車に乗って行きます。」

「電車!乗りたい!イコイコ〜♪」

「あ、ちょっと!引っ張らないでくださいよ、そんな慌てなくても水族館は逃げませんから!」


ハルさんは本当に不思議な人で、まるで初めて来た旅行者のように辺りをもの珍しそうにキョロキョロしていた。

「都会ってくさいんだねぇ〜…。」

「ハルさんは、田舎から来られたんですか?」

「ん?あーそんな感じ♪」

「実は僕も田舎からこっちに越して来て…というか、飛び出して来たんですが…。」

「ふーん…。あ、あれが電車だよ!」

「あはい。そうですね…。」

朝の通勤時間はとうに過ぎて、人も疎らで駅は空いていた。


<ピンポーン!>


「キャ!なになに??」

「ハルさん!切符買わないと!」

「あ、そうだそうだ!」

(電車に乗った事ないのかな…ハルさんの分も買っておこう。)

「はい、どうぞ。」


なんとか電車には乗れた。

(まてよ…これはデートだよな。って事は男が全奢りってことだよな!!後でお金おろしとこう…)

ハルは終始落ち着かない様子で、車窓を眺める姿ははじめて電車に乗った子どものようだ。


「あの、ハルさん。…どこであなたと知り合いましたか?」

「そうだなぁー…小さい時に君と会ったことがあるよ。」

「小さい時…ハルさんと…」

(ダメだ…全く思い出せない…。)

「公園で遊んでた君をみてて、すごく楽しそうだったんだ。だから私も遊びたいなーって近くで見てたら、君が声をかけてくれたんだよ。」

「僕が声を…ごめんなさい。小さい頃の記憶があんまり残ってないみたいで…。」

「そっか…寂しいね。」

ハルさんの言葉に言葉が出てこなかった。

(僕は寂しいんだな…)


「あ、ハルさん。着きましたよ!降りましょう。」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白いイルカ ぽん @ponT-how

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ