第五話「はじまり」

「君はいったい・・・。」

突然のことに整理のつかないボクが呆けていると女性はマスターに振り向いた。

「あの、ウチのがご迷惑をおかけしました。私も勝手にソファー借りちゃってすみません。」

「ん?キミは彼の・・・そうかそうか!イイヨ!うちの店は特に迷惑してないからダイジョウブだよ!(キミもスミに置けないねえ~)」

マスターの肘がボクを小突いた。


「ねぇ、これからどうする?どっか遊びに行きたいな~♪」

「ちょ、ちょっと待っ・・・!」

「今日は私の誕生日会をしてくれるって、“約束”だったよね。」


――「約束だよ!・・・・だからね!絶対・・・よ!」――


「うっ・・・頭が・・・。」

またあの激痛だ。

「おいで・・・。」

女性がボクを優しく抱きしめた。

途端に頭の痛みが引いていく・・・。

「キミは今日休みなさい。お店は私ひとりでダイジョウブだから。」

「マ、マスター・・・。」

「マスターありがとう♪ほら、立てる?いこいこー!」

有無を言わさず強引に引っ張られ、ニヤニヤしているマスターをしり目に店を出た。


どこに向かっているのか、どんどん進んでいく。

このままどこかにいってしまいそうだ・・・この感覚は・・・。

「ちょ、ちょっと待ってくれ!君はいったい誰なんだ!」


「本当に覚えてないんだね・・・・まぁ無理もないかっ」

「ごめんなさい。記憶にないです・・・。」

こんな綺麗な顔立ちで屈託のない笑顔の人なんて、一度会えば忘れない。

「んーそうだなぁー・・・私はハルです。どうぞ、よろしくお願いします。」

「ハル・・・よ、よろしくお願いします。どこでお会いしたのでしょうか。」

「どこでもいいのよ!早速だけど、ココ。ココに行きたいな~♪」

ハルが指さした方向には壁一面に描かれた海。

そこには様々な種類の魚が泳いでいる。

一番上には、光にあてられ、色とりどりに発光しているイルカが描かれていた。


「きれいだ・・・。」

「うん・・・綺麗だよね。わたし、一度でいいから見てみたかったんだ・・・。」

「・・・そっか。じゃぁ、行きますか?」


ハルはとても喜んだ。

ふと彼女の目に涙が浮かんだようにも思えたが、気のせいだったのかもしれない。

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