第四話「忘却」

 むき出しの白熱球がぶら下がっている。

外は明るく、小鳥のさえずりが聞こえる。

「朝か・・・朝!?」

飛び起きたが、体中が痛い。

痛みを思い出し増していくと同時に、徐々に記憶もよみがえる。

「マスターに連絡しないと!いや、昨夜の女性は?というかここはどこ・・・!?」

あたりを見渡すと、向かいのソファーに毛布にくるまった女性が眠っていた。

この状況が一体何のか、必死に考えたが軽い頭痛がする。

「おやおや、気が付いたかい。」

香ばしいコーヒーの匂いを連れて、マスターがきた。

「キミ、ダイジョウブかい?倒れていたからどうしようかと思ったよ~ホッホッホ」


マスターの話によると、昨晩忘れ物を取りに店へ戻ったところ、

ボクが床に倒れてうなされていたんだそうだ。

救急車を呼ぼうとしたら、突然歩き出し事務室のソファーに寝ころんだらしい。

マスターは心配。というよりも、この状況を楽しんでいるようで、興奮気味だった。

「大丈夫そうだね!安心した。それよりキミ~この娘はいったい誰なんだい?」

「ボクにもよくわかりませんよ・・・迷惑を掛けました。すみません・・・。」

「イイヨ!イイヨ!すごく楽し・・・あ、大丈夫そうだから!ネ!」

昨晩の痛みはいったい何だったのか。

(一度、病院で診てもらったほうがいいのかな。)

記憶が断片的で、思い出そうにも思い出せないでいた。

特に外傷も無いようで、ソファーで寝てしまった後の体の痛みくらいだった。

それよりも、目の前で寝ている女性をどうしたものか考えなくてはならなかった。


「ん~・・・よく寝た・・・。あ、おはようございます!」

「お、おはようございま・・・!」

突然女性が抱き着いてきた。

暖かくて、なんだか懐かしくて、“春”の薫りと、涙・・・?


「会いたかったよ・・・。会いたかったんだよ。」

「あ、あの・・・だ、大丈夫ですか?」

「君に会いたかったんだ。ずっと・・・ずっとね。」


女性は泣いていた。

静かに流れ出る涙は、美しかった。

ボクに笑いかけてくる顔は、どこか懐かしく、見覚えのある顔だった。

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