第三話「記憶」

「もう閉店の時間で・・・」

「さけをだせぇ~!」

有無を言わさず入店してきた。

相当酒に酔っているようだ、こちらに向かってきたと思えばそのままの勢いでカウンター席に座り、突っ伏してしまった。

「あの、お客様・・・あのぉ。(迷惑だなぁ・・・どうしよう。)」

ふと、横顔に懐かしく、見覚えのある感覚がした。

酒の匂いに交じり、暖かい陽だまりで寝ころんだ時のような・・・“春”が薫る。


――「・・・・!そっち・・・ない!」――

突然の頭痛に見舞われ視界がぼやける。

「マスターに・・・連絡・・・しないと。」

今までに感じたことのない痛みが脳を貫くと同時に、

どうしようもない悲しみがボクを襲う。



――「お前たちは、本当に仲がいいな。まるで兄弟だ。」――


         懐かしい声


――「ねぇ、どこに行っちゃったの?もう・・・・」――


         悲しい声


――「いやだ!そんなのいやだよ!」――


これは・・・怒り。モヤモヤした行き場のない怒り。

どうしようもない怒りに小さな体を震わせている少年がそこに居た。

考えるより先に、ボクは少年に話しかけていた。

「どうしようもないんだよ。あきらめよう。」

――「オマエになにがわかるんだ!」――

「うるさい!お前みたいな子供に理解できることじゃないんだよ!!泣くな!」

――「オマエなんか・・・嫌い・・・。」――

その少年は泣きながら僕の前から消えていった。

「お、おい!ちょっと待て、おい・・・なんなんだよ・・・。」

自分の中のモヤモヤが大きくなっていく。

小さな子供を怒鳴りつけたところで、このモヤモヤは晴れることはなく。

胸が痛くなっていった。

「いいにおい・・・。」

すべてを包み込むような、あの“春”の匂いが薫る。

「気持ちがいい・・・でも、怖い・・・。」

突然の恐怖心にボクは震えた。

「逃げなきゃ・・・!」

ボクの背後から得体のしれない闇が迫ってきている。

「怖い・・・怖い、怖い!助けて!」

ボクは走り出す、一生懸命に。

その時、どこからともなく聞き覚えのある声がした。


――「・・・君!大丈夫かい?・・・君・・・おーい!」――


聞きなれた声に向かってボクは走った。


ひたすら走り続けた。


息も絶え絶えに。


(あぁ、いつまでこんなコトが続くんだろう・・・。)

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