第二話「運命」
——ツインレイ――
ボクはこの言葉が好きになれなかった。
この世に生まれたときに、ひとつの魂がふたつに別れてできた魂だなんて・・・。
その魂は固い絆で結ばれて、自分の対として“運命の相手”と呼ばれているそうだ。
「すごい解釈ですね・・・。誰が考えたんですか?」
「そうですね。私はこの解釈は本当にあると信じていますよ。それでは、またお会いしましょう。」
質問に答えることもなく、ポケットからお札を何枚か置いて店を出た。
「もう帰るのネ、また色々お話聞かせてネ~!」
「マスター、あの人よく来るんですか?」
「初めてのお客様だよ。いやぁ~不思議な人だったネ。」
たしかに、不思議な人だった。
あのとき感じた感覚がまだ拭えないでいた・・・。
濡れた床に天井が映し出される。
床に映る天井は、映されてる天井の“片割れ”なのだろうか。
パラレルワールドが存在しているのであれば、まったく同じボクが存在していて、
それも“ツインレイ”というのだろうか・・・。
考えれば考えるほどによくわからなくなってくる。
例えば、昔の偉人を模して才能の有る人を“現代のモーツァルト”なんて表現したりする。
(あ、“運命”といえば、ベートーヴェンだったかな・・・。)
「ボーっとしてないで、ちゃんと掃除しなさい!」
「す、すみません!」
どうやら同じところを何度もモップで磨いていた。
あの琥珀色の瞳にみられてから仕事が手につかなくなっているようだ。
「じゃぁ、ワタシは先に帰るけど、あとは任せちゃってダイジョウブ?」
「あ、ハイ!お疲れ様です。すみません・・・掃除に手間取ってしまって。」
「いいよいいよ!最近キミは働きすぎなんじゃないのかな?じゃ、おさきに~!」
「お疲れ様です。」
この街に来てから、中々うまくいかず・・・仕事も退職。
静かに飲める店を探して街を徘徊していた時にこの店を見つけた。
外から店内の様子をうかがっていると、求人広告を見て訪ねてきた人だと勘違いされて、よくわからないうちにトントン拍子に合格して今に至る。
ボクを拾ってくれた?のはあのマスター。
本当に優しい人だ。
今ではすごく感謝している。
捨てる神あれば拾う神ありとは、こういうことなのかもしれない。
「よし、終わり。」
片付けを済ませ、カウンター席に座ってみる。
(ちょっと疲れたし、休憩してから帰宅しよう。)
いつもはカウンターの中からの景色に慣れているせいか、ここから見える景色は新鮮なものだった。
ここにあの男性が座っていたんだ・・・。
その時、店内に客が来たと知らせるベルの音が鳴り響いた。
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