第一話「孤独」

 「誕生日おめでとう。・・・自分。」

 暗い部屋に、いくつかの蠟燭が大きな影を壁に映し出した。

(懐かしいなぁー・・・)


—―「おめでとう!大きくなったわね。」――


        暖かい声。


——「お兄ちゃん、いくつになったの?」――


        暖かい光。


——「お前ももう、6年生か。どんどんでかくなるな!」――


        暖かい手。


もうそこには無い。

ボクはヒトリだった・・・。


        冷たい部屋。





 時刻は午後の7時を過ぎようとしていた。

(そろそろバイトに行かないと。)

振り返る必要のない空間を背に、重い扉に手をかける。

どうでもいいほどの倦怠感に襲われながら、扉に体を預けた。

「あ・・・雨か。」


 すれ違う人々は皆、家路を急いでいるのだろう。

雨が傘に当たる音と、すれ違う人々の傘と傘がこすれる音、コツコツとなる靴の音が

それぞれのリズムで、自分勝手に鳴っていた。

ボクはウォークマンの音量を上げた。



 乾いたベルの音が鳴る。

「いらっしゃ~い!あ、キミかこんばんは。今日もよろしくネ。」

「こんばんは。よろしくお願いします。」

暗い店内はムーディーな音楽が流れ、壁にはJazzのレコード、もう使えないだろうジュークボックスが飾られている。

奏者のいないグランドピアノは、ひときわ目立って見える。

「マスター、今日の入りはどうですか?」

「ん-?まぁ、いつも通りだよ~。それよりさぁ、面白い話があるんだ。聞いて聞いて!」

この店には色々な人がやってくる・・・。

人が好きでおしゃべりな人。

お酒が好きでただ飲んでいる人。

仕事や人生に疲れた人。

「はぁ・・・なんでしょうか?」

「キミは“ツインレイ”という言葉を知っているかい?」

「ツインレイ?知りません・・・。」

「これはねぇ~“自分の魂の片割れ”っていうんだってさ!すごいよね!」

「あの・・・何がすごいのか教えてください。」

「え?いやぁ・・・すごいよね!ツインレイ!」

「はぁ・・・すごいですね。」

見かねてか、カウンター席に座っていたシルクハットの男性がこちらを見る。

途端にボクは悪寒が走った。

琥珀色の瞳をした男性は、ボクの奥深くをのぞき込んでいるような。

すべてを見透かしているような、瞳に吸い込まれそうな感覚に陥った。


「初めまして。バイト君。私が説明しよう。」

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