偉大なる病~我が心の日記~

@bokura150

偉大なる病

 私は偉大なる病に冒されている。


 それはあるときは私の頭蓋の中に入り込み、痛みとなって駆けずり回る悪魔である。それはあるときは、秋風のようにやんわりと私を包み込んで、空と海の境界線の果てに誘う天使である。


 そしてあるときは…。


 それは私自身の姿となって、暗闇の底で呆然とする私に微笑みかける。


 世界とは、人生とは修業の場だ。幾年生きようとも、幾年努力しようとも、幾年快楽を味わおうとも、私はいつも偉大なる苦悩懊悩、唇を噛むほどの苦痛に耐えなければならない。たとえすべてが海岸に浮かぶ砂城のように脆く、簡単に時間の渦に巻き込まれて消え去るとしても、何かを掴もうと海の中で必死にもがいている。


 人間は、行動しなければ気が済まない性格らしい。一夜の夢のように儚い一生であろうと、そこに意味を見出そうとあくせくする。巨万の富を手に入れ、多くの女に囲まれ、名声をほしいままにし、あわよくば歴史に名を残す偉人になりたいと、誰もが願うにちがいない。しかし、私にはよくわからない。私はただ生きることのみを欲する。


 ただ生きるのではなく、よく生きる。途方もなく広がる時間平面上の奥深くでソクラテスは私にそう呼び掛けているが、しかし叶わぬ夢だ。彼の言う「よく生きる」に到達するほど、私は自分自身をかいかぶってはいない。わが身の過去を振り返れば、おのずと罪ばかりが露出し、ここにいる保証さえも見失うほどのありさまである。


 これまで多くの人間に迷惑をかけ、裏切り、そのたびに自分を傷つけてきた私は、何かに押しつぶされるのを必死に耐えながら人生の登山を続けるしかあるまい。キリスト教には原罪という言葉があるが、生まれる時点で罪を背負っているなどと、無責任なことまでは言えなくても、これだけははっきりと言える。


 私は今までも、そしてこれからも、誰かに迷惑をかけ、そして裏切るにちがいない。


 これは私という作品の運命であり、性であり、逃れられない鎖となって私をきつく縛り上げている。


 それでも少しは言いたい。できるだけ迷惑をかけず、人から愛される一生を過ごしたいと。

 

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