それぞれの未来
「それじゃ、俺行くから。時々帰って来るけどよ、まあ元気でやるわ。」
「俊ちゃん、元気でやるのよ?時々は、連絡寄こしてね?」
「怪我の無い様にするのだぞ、俊平。ダンサーと言うのは、体が資本なのだからな。」
「頑張ってね、俊平。」
戦いが終わってから約二年、俊平は高校を卒業し、上京する為に家を出た。
結局、先輩だった彼女とは別れてしまった、俊平についていける自信がない、と言って、振られてしまった。
ただ、それも人生、色々あるうちの1つだ、と俊平は前向きにとらえていた。
「東京、かぁ。」
ダンスの事務所には所属が決まっていた、在学中にオーディションに参加し、合格していたのだ。
これからは、まずはバックダンサーとして下積みを積んでいき、そして一人前のダンサーになる、それが俊平の夢だった。
独り暮らしを始める為に引っ越しをし、今は最後の荷物をもって東京へ向かっている所だ。
「そういや、あいつらもそれぞれだもんなぁ。」
リリエルとセレンはあと少しこの世界を回ったら、異世界に行くと言っていた。
ただ、異世界でも、スマホが通じる様にディンがしてくれた、と言っていたから、連絡が出来なくなるという事はない、とは言っていた。
異世界につながる電波、と言うのも驚愕だった、ディンの戦闘技術ばかり目が行っていて、そう言った技術を持っている事までは知らなかったからだ。
ただ、寂しくはない、いつでも連絡は繋がる、それは嬉しい誤算だった。
「うっし、着いた。」
羽田空港からそこまで遠くない、神奈川県の東側に居を構えた俊平。
高校を卒業したての人間が借りるには少し大きな、1LDKのアパート、ここがこれから俊平の拠点になる。
家具や家電は先に入れておいた、後は自分の暮らしやすい様にセッティングしていくだけだ。
「今日は外で飯食うか。」
神奈川の東側と言えば、横浜中華街だろう、と俊平は軽く荷物を整理し、家を出る。
「よう、俊平。」
「お、セレンさんじゃねぇか!もう異世界に行ったんじゃなかったのか?」
「明日旅立つんだよ。だから、おめぇの顔見に来たんだ。」
部屋を出てすぐの所でセレンが待っていて、2人で話をしながら中華街に向かう。
「そっか、暫く会えなくなんのか……。寂しいな。」
「って言っても、連絡は取れる様にディンがスマホ改造してくれただろ?」
「まぁ、そうなんだけどよ。」
セレンが、湿っぽい顔をしている俊平の肩を叩いて、笑う。
これは別れではない、新たな未来への道だろう、と。
「今日からお世話になります、皆さん、よろしくお願いいたします。」
「師範代!俺達はついていきます!」
「はい、厳しい修行になるかと思われますが、一緒に切磋琢磨していきましょう。」
清華は、高校卒業してすぐに、実家から近い土地を購入し、新たな道場を立てた。
看板には、鈴ケ峰二刀流剣術道場、と書かれていて、一見鈴ケ峰剣道場、からのれん分けしたようにも見える。
しかし、その中身は大きく違う、父が指導するのは剣道、清華が指導するのは、二刀流の剣術だ。
後世に遺していく、それは自分の生きた証なのだ、と思っていた清華は、卒業と同時に父に将来の事を話し、すぐに目標に向けて進みだした。
「あら、立派な道場ね。」
「リリエルさん、来て下さったのですか。」
「えぇ、この世界を旅立つ前に、顔を見ておきたくてね。まぁ、連絡はいつでも取れるから大丈夫なのでしょうけど、会う事は少なくなるでしょうしね。」
夜、食事を外で取ろうとしていた清華の元に、リリエルがやってくる。
リリエルは今日を持ってこの世界の旅を終える、そして、ディンが言っていたアリナのいた世界に次は行ってみよう、と思っていた。
「食事をご一緒しませんか?私はこれからなのですけれど。」
「あら、良いわね。ちょっと良い所に行きましょうか。」
訪問着を着た清華と、戦っていた頃の服装なリリエル、中々おかしな組み合わせだが、それを咎める者もいない。
2人は、これまでの一年半、何があったかを話ながら、食事に向かった。
「もう、河伯流はお前が継ぐ時が来たな、修平よ。」
「うん、俺頑張るから。」
河伯流の道場を継ぐ事を決めていた修平は、祖父の引退を機に、道場主となる事となった。
修平は、他の守護者達は、それぞれの道を行く、道場を継ぐというのは自分だけ、という事を少し寂しがっていたが、それぞれの選んだ道がある、と考えた。
「お兄ちゃん、おじいちゃん、お帰り。」
妹の綾子は、あれから凄まじい速度でリハビリを進め、なんと歩ける所まで回復した。
元々、いつかは歩ける様になる、それが綾子の目標だったのだが、ここまで早く出来る様になる、と言うのは、嬉しい誤算だった。
「ご飯、作るね。」
「ありがとう、綾子。」
食事を待ちながら、修平はグループチャットを確認する。
大地が、今日アメリカに向けて出発する、とは聞いていた、言語に関しては、ディンの魔法を借りる事になるだろう、と言っていて、ディンは本当に、自分達が困らない様にしてくれているんだな、と感謝していた。
「ふあぁ……。」
夕食を終え、風呂に入り、ベッドに潜り込む修平。
寝る前にとチャットを確認すると、ポッとちょうど1つのチャットが飛んでくる。
ー修平君よ、何やら竜神王サンと、こっちの神サマが手を組んで、連絡を取れる様にした、と言っていたぞ?ー
「ウォルフさん……?」
それはウォルフからのチャットで、修平はたいそう驚いて、急いで返事を返す。
二度と会う事はない、と言っていたウォルフから、こうしてチャットが飛んできた事、会えないとしても、またこうして連絡を取る事が出来る、それが嬉しい、と笑う。
「じゃあ大地さん、気を付けてくださいね。連絡、待ってますよ。」
「うむ、行ってまいる。」
羽田空港から、アメリカに飛ぶ大地を、空港まで見送りに来ていた竜太。
キャリーケースとパスポートを持った大地は、それを無くしたり盗まれたりしない様に、と肩掛けの小さいかばんを持っており、その中に大切なものを入れていた。
「本当は、一緒に行きたかったんですけどね……。僕も高校があるので、なかなか……。」
「通えるのなら、通った方が良いからな。」
高校二年生になった竜太は、野球部に所属していて、今ではエースピッチャーになっていた。
今年の甲子園を目標に、悠輔の通っていた学校に通いながら、他の部員達の面倒を見ていた。
将来的にはディンの手伝いをする、プロ野球選手にはならない、と決めていた竜太だったが、高校のうちは、楽しめるだけ楽しんでおけば良い、と言われていて、楽しんでいた。
「リリエル殿達は、異世界に進むのだったな。」
「そうですね。たまにこっちに来るとは言ってましたけど、父ちゃんの魔法で飛ぶ訳じゃないので、時間経過はあるって言ってました。でも、連絡はいつでも取れますから。」
「そうだな。」
ディンが改造したスマホ、電源を繋ぐ必要もない、電波があるかどうかも関係ない、と言う、まるっきり未来のアイテムと化したスマホ、それを渡されていた大地達は、リリエル達と連絡が取れる事を喜んでいた。
大地は、これからも旅の写真をチャットに投げるつもりでいて、竜太達も、それを楽しみにしていた。
「では儂はそろそろ行かねば。」
「はい、行ってらっしゃい。」
一時の別れ、それは決別ではない。
またいつか、道が交わる日が来る、その時まで、それぞれの道を行くだけの事だ、と。
「ふむ、これで良いでしょう。」
大学に通い始めた外園は、物語の結末を書いていた。
これをディセントに届け、テンペシア達にディセントの言葉に直してもらい、そして、広める。
それが外園の望んだ事であり、ディン達もそれに賛成していた。
これは、風眞蓮と、聖獣の守護者達による、勇気と希望の冒険譚。
決別はあった、しかし、世界は守られた。
きっと、蓮は見守ってくれているだろう、遠い空で、幸せに過ごしているだろう。
そう信じて、皆は生きていった。
聖獣達の鎮魂歌~Requiem~ 悠介 @yusuke1994
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