臆病な男は女の愛を信じられない

辰巳京介

『臆病な男は女の愛を信じられない』    作、辰巳京介


登場人物


男(58)


紗椰(さや)(31)

莉(り)緒(お)(27)

美(み)桜(お)(21)


さくら(20)

真由美(45)

            

1、スナックでの男の話


「あら、いらっしゃい」

男がドアを開け、スナック『真由美』に入ると、ママの真由美が優し気な笑顔を見せてくれる。

男と真由美は古くからのつきあいで、男の私生活のことを知っている数少ない、まあ友人と言ってもいい存在だった。

男はカウンターに座り、真由美の継いでくれたビールに口を付けた。

カウンターの中には若い娘が笑顔を見せていた。

「今度、新しく入ったさくらちゃん、ごひいきにね」

「よろしくお願いします」

さくらはまだ、二十歳(はたち)ぐらいに見えた。

「さくらちゃん? こちらはね、すごいお金持ちで、お屋敷に住んでるんですよ」

「すてき」

「しかも、3人の奥さんと」

「え? どういうことですか」

さくらはきょとんとした。

「変なこと、言わないでくれよ。二人は娘じゃないか」

「なんだ」

さくらは安心したように笑った。

ところが真由美は、まじめな口調で、

「その娘さん、一人は前の奥さんで、もう一人は次の奥さんなのよね、うちにいた娘(こ)に手出して」

と、続けたのだ。

「どういうことですか?」

さくらは尋ねずにはいられなかった。

「この人、変わってるのよ。離婚した元奥さんを養女にして、で、しばらく屋敷に住まわせて、それでお嫁に出して、それで自分は別の娘(こ)と再婚してるの」

「はあ・・・」

さくらは、何が何だか分からなくなった。

男はグラスを持ち、ビールを一口飲むと、ぽつりと言った。

「僕は小心者なんだ。だから、女性の愛情が信じられないんだよ」

「だから、3人も女性を近くに置いている・・・」

さくらが独り言のようにつぶやいた。

「ところで、美桜は元気?」

「ああ、元気だよ」

「ご存じなんですか?」

「ここで働いてたのよ、あなたみたいに。あなたもこの人には気をつけなさいよ」

「さて、そろそろ帰るか。今日は嫁に行った紗椰が帰ってきてるんだ」

そう言うと、男は席を立った。

                        スナックでの男の話 終わり


2、4人のセックス


1.

男の屋敷には大きな露天風呂がある。

スナックから屋敷に戻ると、男は湯船につかった。

ほどなくすると、渡り廊下に足音がした。

帰ってきていた紗椰と現在の妻である梨緒、そして次の妻になる美桜が入ってきた。

紗椰がいるときは、こうして4人で湯船につかることを、男は日課としていた。

「ちょっと、三人ともそこに立ってくれないか」

「なあに?」

「三人の裸を改めてよく見たいんだよ」

「やだあ」

三人は少し恥ずかしそうに、男の前に立った。

「3人とも、きれいだ」

三人の女たちは、裸のままはにかんだ。



2.

「じゃあいつものやつ、やるよ」

風呂から上がり、まだ全裸の3人の前で男はそう言うと、紗椰を仰向けに寝かせ、その紗椰の顔の上に梨緒の股間が来るように四つん這いにさせた。

「こうだっけ」

梨緒が言う。

美桜は梨緒の顔の下に自分の股間が来るように、仰向けに寝た。

そして、紗椰は梨緒の股間を、梨緒は美桜の股間を自分たちの舌で、それぞれ愛撫した。

そんな女たちの快楽の表情をしばらく眺めた後、男は自分のペニスを紗椰の中へと挿入していった。

「ああ」

女たちは、口々に声を出した。

こうして女たちは、三人がそれぞれに快楽を味わうことになり、これが男の理想の形だった。


男は、こうして複数の女たちを相手にするとき、女たち全員を楽しませることを心掛けた。

誰か一人だけ、あるは二人だけが満足し、不満足の女が出ることを男は嫌った。

複数の女を相手にセックスをするという、あまり人のやらないことを日常としている男の、言わば責任であると男は思っていた。


「じゃあターンして、紗椰が一番前へ行ってごらん」

そう言うと、男は紗椰の体の中から自分のペニスを抜いた。

女たちは心得たように、紗椰が一番前の美桜の顔の上にまたがり、美桜の性器を舐め始めると、男は今度は梨緒へ挿入した。

しばらく、男が梨緒の体の中を往復した後、美桜が一番前へ移動した。


3.

「今日はゲームをしよう」

男が言った。

「なあに?」

梨緒がうれしそうに言う。

「これを腰のあたりに置いて、顔とおっぱいを隠して、僕に見えないようにしてくれ」

「何をするの?」

3人は男の言われたとおりにした。


男は、四角いフレームに白い布の付いたパーテーションのようなものを女たちの腹の上にかけた。

「いいかい、これから君たちの中へ入って、誰の中にいるかを当てるよ」

「わかるかしら」

「僕は向こうに向いているから、僕にわからないように君たちの体の位置を変えてくれるかい?」

男が背を向けると、くすくすと笑い声が聞こえ、

「変えたわ」

紗椰の合図があった。

男が振り返ると、そこには、脚を大きく広げた3つの露わな股間があった。もちろん3人とも黒い陰毛は、男によって定期的に処理されており、生えてはいない。

「いいかい、始めるよ。気持ちよくなっても声は上げないでね、わかってしまうから」

女たちから、小さく笑い声がもれた。


                       2.4人でのセックス 終わり


3、女性が気持ちよくなる3つの場所


1.

女性には3つの気持ちのよくなれる場所がある。

もちろん、乳首、乳房、耳、背中などを触られると、女性は感触を得るが、今回はそれらの箇所はカウントしないことにする。

1つ目はクリトリス。

これはよく知られている。

膣の上部にある皮に覆われた小さな桃色の突起だ。

よく、女子高生が学校のトイレでオナニーするときに、いじるところ。

ここを指や舌で刺激をして絶頂感を覚えることを「外イキ」と言い、ビギナー向けの箇所だ。


2つ目のGスポットは、膣の入り口付近上部に位置し、人によりその場所が微妙に異なる。

そのため、中指を使い、探す必要が出てくる。

中指を膣の中へゆっくりと挿入し、指の腹を膣の上の壁にそって這わせてゆくと、少しざらついたくぼみの様な場所に出会う。そこがGスポットだ。

ここを刺激されると、クリトリスとは違った絶頂感が来る。


そして、3つ目のポルチオだが、これは膣の一番奥、子宮の入り口にある。

このGスポットやポルチオを刺激され絶頂感に至ると、体の中から快感が押し寄せること。これを「中イキ」と言う。

この「中イキ」はクリトリスの刺激による「外イキ」に比べ、快感の深さが違う、と女性たちは言う。

特にポルチオによる絶頂感は、行った後の余韻も長く、これを一緒に経験した男性を忘れられなくなる。

逆にこの「中イキ」の存在を知らない男性も多く、クリトリスを舐めて彼女を行かせただけで女性を満足させたと思っている。これが彼女の浮気の原因、あるいはふられる原因となる。

この物語の主人公の男も、若い時このような苦い経験をし、勉強を重ね、現在に至っているのだ。


                 3、女性が気持ちよくなる3つの場所 終わり


4、屋敷にやって来た美桜


1.

「本当に、それでいいのかい?」

「ええ、もう決めました」

美桜はきっぱりと言った。

「ちょっと、美桜ちゃん、そんなこと簡単に決めちゃっていいの?」

「いいんです。もう十分考えましたから。あたし、この人と屋敷で一緒に住みます」

「もうすぐ梨緒は嫁に行くことが決まっている。そうしたら、きみと結婚しよう。君は、28歳の誕生日までは僕の妻でいてくれ。それ以降は、もし、君に好きな人ができたら、その人と再婚してくれていい。その後は、紗椰や梨緒と同じように僕の養女つまり娘になってほしい」

「わかりました」

美桜はうなづいた。


2.

屋敷に戻ると、男は美桜のスカートをめくり、美桜の下着を足首まで下した。

屋敷に着いたら、すぐにセックスが始まるだろうと思っていた美桜だが、自分の股間の三角の地帯をしばらくながめている男に少し違和感を覚えた。

「何をしているんですか?」

男は答えず、まだ見つめている。

「はずかしいです」

「おいで」

男は美桜の手を取り、浴室のドアを開けると、美桜の服を脱がせ全裸にした。

「この椅子に、浅く座って」

美桜が椅子に座ると、男は美桜の太ももを大きく左右に広げた。

「何をするんですか?」

「いいかい、覚えておいてほしい」

男はそう言うと、美桜の小さなクリトリスの上のあたりに、うっすらと生えているヘアを親指で撫でながら、

「ここに何かを生やしている女性は、うちには住めないんだよ」

と、言った。

そして、

「でもね、美桜は何もしなくていいんだよ。僕が定期的に処理してあげるから」

と、続けた。


男は、シェービングクリームの泡を手のひらに乗せると、美桜の2枚のひだの、外側に塗って行った。

男のシェーバーの使い方はスムーズで、やりなれているように見えた。

おそらく、さっき会った二人の女性の三角の部分にも、生えているものはないのだろう、美桜は思った。


男は美桜のひだの周りにほんの少し生えていたヘアを完全に剃り終わると、手を止めた。

男は何かを考えているようだった。

そして、男は、うれしそうな笑みを浮かべると、シェーバーを美桜の三角地帯に当て、美桜のヘアでクリトリスの上に細長い四角を作った。

「つるつるにするのは、次にとっておこう」

男はそう言った。


男はシャワーからお湯を出し、美桜の三角の地帯のシェービングクリームを洗い流すと、美桜の桃色のクリトリスに自分の舌先を当てがった。

「うっ」

電流のような快感が、美桜の頭の中を初めて流れた。

男の指による刺激が短い間続き、美桜は椅子の上であっと言う間に頭の中を白くした。


                      4、屋敷にやって来た美桜 終わり


5、4人での温泉旅行


1.

青い海が露天風呂の湯舟から広がっている。

女たち三人は、少しのぼせた表情で湯舟に浸かっていた。「じゃあ、始めるよ」

そう、男が言うと、三人の女たちは湯舟に立ち上がった。

それぞれの、形の良い乳房があらわになった。

男は、女の豊かな乳房が好きだ。

豊かな乳房は、女そのものだ、と男は思う。

男の疲れを取り、心と体を休めてくれる女の象徴、それが乳房だ。


紗椰がまず男のペニスを口に含んだ。

紗椰の巧みな舌遣いは、男のペニスはすぐに挿入できる固さにした。

「じゃあ、三人ともその欄干に両手をついてごらん」

女たちは言われるままに両手を欄干につくと、腰を大きく突き出し、男に脚を広げられた。


三人の若い性器が男によって眺められている。

ところが女たちは、そんなことは関係ないといった風に、

「海が青いわ」

「風が気持ちいい」

と、景色にうっとりした表情だ。

「三人に、順番に入れてゆくからね」

男はそう言うと、用意しておいた二つのバイブレータを両手に持ち、自分のペニスは真ん中の紗椰の中へと挿入し、両手のバイブレータは両側にいる梨緒と美桜へ当てがった。

「あ、あ、あ、あっ」

男が腰を動かし、バイブレータを出し入れするたびに、三人の口から声がもれた。


「さあ、今度は真ん中の紗椰と左側の梨緒、体を入れ替えてごらん」

二人は言われるままに、その白い腰を入れ替えると、男は梨緒の中へ自分のペニスを挿入し、紗椰にはバイブレータを入れた。

当たり前の話だが、三人は三人とも中の感触が違う。この感触を味わうのが、三人と暮らしている男の喜びの一つだと男は思う。

そして男は、梨緒と美桜のポジションを変え、美桜の一番若い体の中へ、自分のペニスを挿入する。

「ううう」

美桜が快楽の悲鳴を上げた。


三人に1回づつ挿入した後、男は誰の中で射精をしようかと考え、今日の美桜は妊娠しない日であることを頭の中で確認し、美桜の中へ射精した。

「今日は、ちょっと短くてごめんよ」

「いいの。思い出だし」

「そうよ、あたし、お腹すいちゃったわ」

3人の女たちは満足そうな表情を浮かべ後にした。


                        5、4人での温泉旅行 終わり


6、3人とのセックス


1.

男は梨緒の背中を浴室の壁に押し当てると、梨緒の太ももを両手で広げた。

男の手で丁寧に処理された梨緒の三角の部分には、二重のひだや桃色の突起を覆い隠すヘアは存在していない。


男はまず、両手の親指で梨緒の二枚のひだを大きく開くと、楕円形の肉片の上部にある、桃色の突起に舌の先で軽く触れた。

まだ、充血していない柔らかな感触が男の舌先に感じた。

上目遣いで梨緒の表情を見ると、目を閉じ、きっと唇を真一文字に結んで、快楽に耐えている。


男は、手の平に用意しておいたローションをたらし、親指で、その桃色の突起物を覆っている表皮を川の上から押すように触れた。

コリっといった感触が、男の親指に伝わった。

男は、しばらくの間同じリズムでその動きを続けた。

やわらかかったその桃色の突起は、次第にその固さを強めていった。


しばらくして男は、桃色の突起を覆っている表皮を指先で剥いた。

初めの時とは比べ物にならないほど肥大した桃色の突起が現れた。

男は、その桃色の突起の下側の部分に親指の腹を当てた。

「ああ・・・」

梨緒の口から初めて声がもれた。


男は、桃色の突起の下の両側にある二枚のひだを、ローションのついた両手の人差し指と中指でつまみ上下した。

やわらかい女の小陰唇の感触が指に広がった。


男は最後に、右手の中指を膣の中へ挿入した。

ぬめっとした感触が男の中指へ伝わった。

男は、何回か、中指を膣の中で上下した後、膣の手前の壁の上の部分、いわゆるGスポットを中指の腹で押すように刺激した。

梨緒の口からは再び声がもれ、男がしばらくその動作を続けると、梨緒の体に断続的に小刻みなけいれんが起き、「うっ」と言う声とともにけいれんは細かい震えに変わった。

梨緒は、立ったまま、男の指と舌で行かされた。


2.

男と紗椰は、ベッドの上で上下に重なり、紗椰は男のペニスを、男は梨緒のヴァギナを舐めあっていた。

男の顔の真ん前に、紗椰のピンク色のヴァギナがあった。

男はこうして、女と重なり合うのが好きだった。

小心者で心配性のこの男は、女に隠し事をされるのが怖かった。とかく女は、男に隠し事をするのが好きだ。

今まさに、二人はお互いの全てを見せ合っている、そう感じると男は満足だった。


紗椰の舌使いに十分に硬くなった男のペニスを、男は紗椰の中へ入れることにした。

男はベッドに起き上がると、紗椰を正面から抱きしめ挿入した。

紗椰の体の中のやわらかさと温かさが、徐々に男のペニスに感じてくる。

男と女とが一つとなった瞬間だった。

「しばらく動かさないで」

「わかってる」

紗椰もまたこの瞬間が好きだった。


男はゆっくりと腰を上下した。

紗椰の膣の中に徐々に湿り気が増してゆく。

男はまず、亀頭の上の部分を紗椰のGスポットに当てる動きをした。

男が亀頭の上側で、紗椰の膣の手前の壁を捜してゆくと、ざらっとした低いくぼみのような場所を見つける。

ここが紗椰のGスポットだ。


男は腰の角度を変え、ペニスを膣の上の方、つまり奥深くへと位置した。

そこには、コンコンコンと何かがペニスの先に当たるような感触があった。子宮の入り口、ポルチオだ。

ここを男は、自分のペニスを押し当てるように突いた。

「ああ、そこ、すっごく気持ちいい・・」

紗椰は正直な感想をもらした。


男は、紗椰の体の向きを変え、背中を手前にした。

いわゆる、背面座位の体位だ。

この体位ではペニスの下側が、紗椰のGスポットと出会うこととなる。

男は、ペニスの深さを変え、Gスポットとポルチオを交互に突いた。


3.

男は正常位で美桜の中へ射精する前に、いつも美桜の好きな体位を取った。

背中を男の方へ向け体を起こしている美桜の体を、美桜の乳房を両手で持ち、入ったままでベッドにうつ伏せにし、美桜の両足を自分の方へと伸ばした。

寝バックの体位だ。

美桜に限らずこの体位は多くの女性に人気があるらしい。

男性が無理なく、女性のGスポットとポルチオに、自分のペニスを当てられるからだろうか。

「ううう」

美桜の表情が快楽に歪んでゆく。

男は射精に行きたい気持ちよさを、自分の動きを制御することで抑え、できるだけ長くこの動きを続けることにしていた。

女性を中で行かせることは、男の大事な仕事の一つだ、と男は思っている。


正常位になってからは、男はペニスに感じる美桜の中の気持ちよさを今までほどには我慢しようとしない。

正常位は、射精の体位だ。

男は、美桜の太ももを両手で抱えると、美桜の腰を浮かせ、強く上下し、そして美桜の子宮の中へ自分の精子が注がれるよう射精した。

女たちの月経の周期を把握している男は、毎回、女の体の中で最後の時を迎えた。

「気持ちよかった」

美桜が男の顔に近くで言った。

「そうかい、よかった。でも、君も、紗椰や梨緒のように、僕から離れて行ってしまう」

「私はどこへも行かないわ」

この人は、終わった後、いつも同じことを言う、と美桜は思う。

「いいんだ。僕は君たちから十分に幸せをもらっている」

男はそういうと、ベッドを離れた。


                        6、3人とのセックス 終わり


7、エピローグ


1.

男が通りを歩いていると、喫茶店の店の中に美桜の姿を見つけた。向かいの席には若い男が座っていた。

二人は、顔を寄せ合い、メニューを選んでいた。

男は、その場を足早に立ち去った。

仕方ない。これが現実だ。

若い美桜には、若い男がいいに決まっている。

男は、自分の心を慰めた。


「こないだのこと、考えてくれた?」

美桜の前に座っている、若い男が聞いた。

「ええ」

美桜が答えた。

「僕は、美桜のことが好きなんだ。美桜は、僕のことをどう思ってる?」

「いい人だと、思ってるわ」

「じゃあ、僕と付き合って」

「それは・・・」

「どうして? 誰か好きな人、いるの?」

美桜は答えられなかった。

いくら聞かれても、本当のことなど言えるはずがない。30歳近く離れた男の屋敷に住んで、近いうちにはその男の妻になるなどと、仮に話したところで信じてはくれないだろう。

そして、誰か好きな人いるのかと言う質問をされたとき、男の表情が浮かんだ自分を、不思議に思った。


2.

男は、真由美の店のドアを開けた。

真由美と新しく入ったさくらが男を迎えてくれた。

男はカウンターに座ると、ため息をついた。

「あら、元気ないじゃない」

真由美がおしぼりを持ってきた。

「さっき、美桜が男といるのを見ちゃってね」

「あらあら」

「あたしが、慰めてあげましょうか、なーんてね」

さくらが冗談めかして言うと、

「頼むよ」

以外にも、そう男は答えた。

「ほんとですか!? あたし、渋いロマンスグレーに弱いんですよぉ」


3.

「ただいま」

美桜が屋敷に戻ると、露天風呂の方から男の声がした。

リビングに入ると、紗椰と梨緒は二人ともテレビを見ている。

「お風呂、誰と入ってるの?」

「さあね、さっき連れてきた若い子じゃない?」

美桜は驚いて、風呂の方を眺めた。


「新しい人を、屋敷に入れるのはやめてください」

男が、さくらとかいう若い女を送りけってくると美桜は男に食い下がった。

「どうしてだい?」

「どうしてって・・・」

「君が嫁に行った後の人は必要だろ?」

そう言われ、美桜は答えられなかった。


男はそれからも、そのさくらと言う自分より一つ若い女を屋敷へ連れてきた。

美桜の心の中には、自分でも、うまく説明つかない感情が生まれていた。

それは、さくらを憎らしいと思う感情だった。


それから数日後、男はまた、さくらを屋敷に連れてきた。

そして男は、さくらの手を取り、2階の自分の部屋へ連れて行った。


どの位の時間だろう、3人の女たちはリビングで黙っていた。突然、美桜が立ち上がると、リビングを出て行った。

美桜は自分の感情を抑えられなくなっていた。

美桜は階段をのぼり、男の部屋へ近づいた。

部屋のドアは細く開いていて、中をのぞくと、男が、さくらの腰を後ろから激しくついていた。

さくらは、たぶん、いつも自分たちが見せているだろう恍惚の表情を浮かべていた。


小一時間経ち、男がさくらの手を取り下へ降りてくる

「送ってくる」

まるで何事もなかったかのように言い、男はさくらの手を取り玄関へ向かった。

その時、美桜が男に近づいた。

「きゃあ!!」

さくらの口から、叫び声が上がった。

男の腹には、小さな果物ナイフが刺さり、血を流す男の横で、震えた美桜が立っていた。


4.

病室の廊下で、妻である梨緒が医師に状況を説明していた。

「はい、主人がキッチンで転んで、落ちていた果物ナイフでけがをしてしまったんです。ご迷惑をおかけしました」

医師は、心配ないですよ、と言うと、離れていった。

病室のベッドに、男が横たわっていた。

傍らには、美桜が肩を落とし座っていた。

梨緒が入ってきて美桜をみると、小さくため息をついた。

紗椰が重い口を開いた。

「ねえ美桜、どうしてこんなことしたの?」

美桜は、しばらく口をつぐんでいた後、絞り出すように、

「私、あの子が憎かった」

と、言った。

「私、この人との今の暮らし、手放したくない」

美桜はパジャマ姿の男を見てから、梨緒に言った。

「私、この人が好き。だから、梨緒は安心してお嫁に行って」

梨緒は小さくうなづき、紗椰は少し微笑んでいた。

男は、驚いたような表情で美桜を見つめていた。

そして、美桜はこう締めくくった。

「私はあなたを裏切りません、どこにも行きません、一生あなたの妻です」

男の目には、涙が光っていた。


                           7、エピローグ 終わり

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臆病な男は女の愛を信じられない 辰巳京介 @6675Tatsumi

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