エピローグ
▽
「――見ましたか! かっこいいですね~! 我らがキュア・ルビー、キュア・ダイヤモンド、そしてキュア・オブシディアンが見事にやってくれました! こちらはKTV、リポーターは――――――――――」
とてもうるさいヘリコプターがリポートを成功させた後のこと。
世界は大きく変化した。
ラブラドライトの“大侵攻”と、キュア・シリーズ乗っ取り計画は、世界中で行われていた。キュア・シリーズの生みの親と、ホーリー・シリーズの生みの親との取り決めで、世界中の区域から選択された箇所にウルツァイト級の硬さを持った魔法使いが配置され、邪魔なキュア・シリーズを殺し、代わりにホーリー・シリーズがそれらを倒した。
彼女たちは新しい救世主として人々に歓迎され、すぐ文化に浸透していった。店先にホーリー・シリーズの正規品の人形が並ぶ日も近いだろう。
一方で、キュア・シリーズも健闘していた。世界中で何十万という犠牲を出したこの事件のあとだ。ホーリー・シリーズの注目の代わりに、キュア・シリーズがバッシングを受けるかと思いきや、K県K市のように自力で倒したところもあり、さほどのイメージダウンには繋がらなかったようである。
「まあ、中には弱いものもいたからな」
魔法の国の技術者たちが談話している。
彼らは白衣を着て、大量のモニターの前に座っていた。
「ホーリー・シリーズはキュア・シリーズを乗っ取ろうとしたわけじゃない。あくまで独占が終わっただけだ。だから過度なイメージダウンが入らないよう調整も入れられていた」
「とはいえ、目標の六割というのはちょっと低い気がしますけどね。納得したんですか? これで。なかにはホーリー・シリーズが撃退されたところもありますけど」
「その辺はまあ、これから修正していけばいいさ。ホーリー・シリーズもこっちの世界の住人ばかりじゃないし、現場のアドリブも多かったから、予想外のこともあった」
「ラブラドライトですか? あれのせいでキュア・シリーズもホーリー・シリーズもどっちもやられた区域もあったらしいじゃないですか。他の区域から応援がきてなんとかなったらしいですけど……あの人、向こうの世界の住人なんですよね。あんな被害が大きくなるようなこと、なんでしたんですかね?」
「ラブラドライトもそうだが、もっと問題だったのは“猟団”と名乗る連中だよ。キュア・シリーズのはぐれものたちだ。なんらかの手段で情報を得た連中が“悪堕ち”してつくった集団だが、おかげで九州のほうは全滅だ。これはバランスをとるのが大変だぞ」
「なんにせよ、実験ははじまったばかりということですね」
技術者がモニターの画面を切り替える。モニターは全国の魔法少女たちのことを監視しているようである。
うち一つに、青い髪の魔法少女が映っている。彼女はアクアマリンという、ラブラドライト傘下の魔法少女の一人である。
「それじゃー、これからは、わたしがリーダーって、ことでー」
アクアマリンはタワーの談話室の高いところに立ち、十一人の魔法少女を見下ろした。
「なんにんもー、戦死してー、すごく悲しかったねー、でも新しい仲間も増えたから大丈夫、悲しくても、寂しくないよー」
十一人の魔法少女たちのうち、カウガールのような姿の魔法少女が耐え切れずに泣き出す。それを隣にいた妖精風の魔法少女が背中をたたいて慰める。
他のメンバーも数人は気にしているが、気にしていないものも多い。それどころか、鼻で笑っているものもいるようだ。
アクアマリンの魔法は“催眠”である。
「悲しくて悲しくて、もう死んじゃいそうーっていうならー、わたしのところに来てねー。忘れさせてあげるから。いいじゃない? 忘却が前進を生むって、誰か言ってたしー。ラブラドライトがいなくなって大変だけどー、みんながんばろーねー」
はい、だとか、わかった、だとか、いろんな台詞が魔法少女の口から出る。
「キュア・シリーズがリーダーだなんておかしいだろ」
終わった後でホーリー・シリーズらしい魔法少女が隣の魔法少女に声をかけた。
その魔法少女はびくっと肩を震わせ、愛想笑いをした。
ホーリー・オブシディアンこと、ホーリー・パーライトは、そそくさとその場を離れた。ラブラドライトに脅しつかされたせいで、すっかり“パーライト”になった気分だったのだ。
これからはホーリー・シリーズの時代。そんなことを言っている者もいたが、どうだか。パーライトにはどちらも同じもののように感じられてならなかった。結局のところ、それ一つで存在意義があるとはとても言えない。魔法少女は、空虚なものだ。ラブラドライトや、あのオブシディアンぐらいの感情エネルギーがあればそれもまた別なのだろうが。
▽
日本のある機関が、黄泉の国と繋がった。黄泉の国とは、すなわち奈落をさし、彼らはあるものをサルベージするために奈落にアクセスしようとしていたのである。
死者のアイデンティティは崩壊しているため、蘇生は不可能だが、奈落に落ちたものを拾い上げることは可能だ。
どこまでも続く黒い穴に機械のアームが差し込まれ、なにか武器のようなものが拾い上げられる。
「これが“スライサー”か?」
マスクに無菌服姿の研究者たちの中で一人目立つ、スーツの男が言った。
「そうです。K県K市の魔法少女、オブシディアンの専用装備。これがあれば、我々の研究は次の段階に進むでしょう」
▽
戦いは終わらない。
ずっとずっと続いていく。
(魔法少女のお仕事 ~黒曜石の魔法少女は
魔法少女をやめたくてたまらない~ 終わり)
魔法少女のお仕事 ~黒曜石の魔法少女は魔法少女をやめたくてたまらない~ 柏木祥子 @shoko_kashiwagi_penname
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