あらすじ「コメディ」とはありますが、いわゆる「日本的」な「コメディ」を期待すると少し肩透かしを食らうかもしれません。しかし「ジョーク」自体はそこかしこに散りばめられており、主役から端役までしっかり作り込まれた登場人物のキャラクター造形、確かな文章力に徐々に引き込まれていきます。
ライトノベルという分野においては、例えばキャラクターが「怒った」時「〇〇は怒った」と表現しがちですが、この作品においてはキャラクターの感情を直接記述するのではなく、その仕草や表情を丁寧に描写していくことで表現します。それだけでなく必要に応じてその描写にフォローを入れていくことで、キャラクターの感情や人間性が非常に伝わりやすくなっています。
そこにライトノベルにありがちな「記号化」はありません。WEB小説としてスナック感覚で読むには、少しカロリーが高い、わかりにくいと評価される方もいるでしょう。しかし一人一人のキャラクターの思惑や心情、あるいや葛藤を丁寧に描写することで、群像劇的な面白さがこの作品では見事に実現されています。
同じく文章を書く立場にある者として、これは実に見習うべき手法であると感じます。もしかしたらこれはWEB小説向け、ではないかもしれない。いわゆる「なろう系」に慣れている人には受けないかもしれない。ですが元来の「活字的」小説の文章表現において素晴らしいお手本です。