第56話 横暴な生徒会長と可憐なクラスメイト

 六限目の授業が終了し、帰りの支度をした僕はまっすぐ生徒会室に向かった。 


 急ぎ足で生徒会室に歩き始めると、誰かが後ろから僕の肩を力強くつかんだ。


「待ちなさいよ、なんでそんなに急いでるのよ」


 振り返るとそこには息を切らしながら僕を見つめる上野さんがいた。

 彼女の様子からして教室からずっと追いかけてきたのだろう。


「僕、生徒会長に呼ばれたんだ……」

「生徒会長ってあの理不尽に怒る?」

「ま、まあそうだけど。今回の件に関しては僕たちが悪いしね」


 そう言うと上野さんはより一層肩を掴む力を強くした。


 怒っているのかと思いきや、そういうわけではなさそう。

 ただ黙ったまま力を強めた。


「あのー上野さん。ちょっと痛いんだけど」

「なんで北川君が呼ばれるの?」


 僕の言葉を無視し、上野さんは質問してきた。


「北川君はずっと真面目に勉強していたじゃない。それなのになんで北川君が呼ばれるの? 他に何か理由があるんじゃないの?」


「そ、それは……」


 流石上野さんだ。彼女の賢い頭脳は僕の行動に違和感を抱いたらしい。


 正直今一番彼女に会いたくなかった。


 もし彼女に勝負を受けたことを言ったら、おそらく心優しい上野さんは自分も頑張ろうとする。


 ……頑張れば頑張るだけ注目されてしまうのに。

 自分があの時勝負を断ることができなかったのが一番の過ちなのに、それを友達に押し付けたくはない。


 だから僕は前を向き直して一言。

「気のせいだよ」


 そう言ってそのまま生徒会室へ再び向かい始めた。


「ちょっと待ちなさいって! 北川君!」


 彼女の僕を呼ぶ声に耳を傾けず、一人で向かった。


 コンコン

 明かりが点いた生徒会室のドアを軽くノックする。


「入れ」


 端的に言われた一言に従い、ドアを開けた。


 この広々とした生徒会室も二人だけだと余計に大きく見えてしまう。


「生徒会に入る気になったのか?」


「なってません。それより今日の自習の時間のことを聞いてもよろしいでしょうか?」


「そうだな。この学校の校則では授業中の携帯電話の使用は禁止しているのは知っているよな?」


「もちろんです」


 一応生徒手帳は一通り目を通してある。


「本来なら連帯責任で学校内に携帯電話の持ち込みを禁止するところなんだが……私たちには特殊な事情があるよな?」


「特殊な事情って、学園祭での勝負の事ですか?」


「その通り」


 その瞬間、嫌な予感が全身を駆け巡った。

 まさかこの生徒会長は一年一組のペナルティを学園祭で下そうとしているのかもしれない。


「出店の場所を私が決める。それでいいな?」


 予想が的中した。

 出店の場所を決められるということは、おそらく一番一目から遠いところに設置される可能性がある。


 そうしたら、一番人の目を浴びやすい居場所と何倍もの売り上げの差が出てしまう。


「流石の生徒会長でもそんな横暴が通用するわけが――」


「北川心。お前は鈍いな、賢いくせに」


 東井あずまい会長は、笑顔でも、渋面でもない複雑な表情をして言った。


 一体今の表情は、その言葉には、何の意味が込められているのか今の僕には理解できない。


「会長はどうしてそこまで僕を生徒会に入れたいのですか?」


「前にも言わなかったか? 使える駒――賢い者は仲間にしておきたいだろ? その方がこの学校のためにもなる」


 今使える駒って言わなかった……? 言ったよね。


 これだと生徒会長の印象がだいぶ変わってくる。


 みんなが言っていた生徒会長は、校則を守らない生徒や他人に迷惑をかける生徒を容赦なく叱る鬼のような人だと聞いた。


 だけど今の生徒会長は、己の私利私欲のために権力を振りかざしているようにしか見えない。


「僕を賢いと判断した理由は?」

「そうだな……定期試験で満点、編入試験で満点、そしてそれを鼻にかけない謙虚な性格が評価された。とでも言っておこう」


 それだけで生徒会に加えようと判断した?

 流石にそれじゃ生徒会の方が危険じゃないのか?


 ただ性格が大人し目で勉強ができるからって仕事ができるとは限らない。 それなのに僕を選んだ?


「納得したか?」


「納得できないわね。何よその横暴な発言は」


 その瞬間、勢いよく扉が開いた。


 この揺るがない芯が備わった可憐な声色。


 間違いない、上野さんだ。


「ノックもなしに生徒会室に入り、挙句の果てに横槍を入れるとは、少し無粋じゃない?」


「そんなのどうだっていいわ。北川君の様子がちょっと変だったから後をつけてみたらこんな状況になってるとはね」



「ストーカーとは中々趣味が悪いな」


「そんなのどうだっていい。話を聞く限りどうしても納得いかないのよ」


「貴様に関係ないだろう?」


 ギロッと会長の目つきが変わった。

 しかし、上野さんもそれに抵抗するように目を鋭く尖らせた。


 上野さんって赤の他人にこんなズバズバ言う人じゃなかったはず……。


 これは一波乱起きそうな予感がしてきた。

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心優しい異世界の少年、死んで日本人に転生する。~常識を知らない無自覚の少年、普通に高校生活を送っていただけなのに、いつの間にか周りの女子を虜にしていました~ @watarai0991

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