第55話 生徒会長は神出鬼没

 昼食が終わり、五限目の真っ最中。


 今日は東澤先生が出張でいないので、僕ら一年一組は自習だ。


 待ちに待った学園祭が終われば、すぐに二学期の期末テストが行われる。


 学園祭の準備でかなりスケジュールが削られると考えると、こういう時間にしっかりやっておくか否かで、点数は大きく変わる。


 勉強なんて後回し。勉強なんてどうでもいい。自習の時間は休み時間だ。

 こんなことを言っている生徒もこのクラスには半分くらいいる。


 別に勉強するかどうかを決めるのは自分自身だからもちろん口は出さない。


 だけど、周りにちゃんと勉強をしている人がいるのに、それを五月蝿くして妨害するのはおかしい。


 雅ヶ丘さんだって苦手な勉強を徐々に克服できてきている。

 学年最下位から、一気に中堅どころまで伸ばしたという結果でそれは証明されてきている。

 だからそれを邪魔するのはおかしいと思う。


 だから僕は席から立って、男子を注意しようとした。


「ちょっと少しうるさい――」


 そこまで言葉が出た瞬間、僕の声を大幅に遮る大きな音が教室中に響き渡った。


 ガンッ!


 教室の扉が外れそうなほどの勢いで開かれた。


 耳に響く一瞬の短い音は教室の中にいる生徒たちの注目の的になった。


 雑談していた人も、ゲームをしていた人も、一斉に音の方へ向いた。


 教室の扉を開いたのは先生ではなかった。


「おい貴様ら、一体何をしているんだ?」


 この妙に鋭いくせにずっとねちっこく脳に張り付くような声は……一度聞いたら忘れない。

 確実に生徒会長だ。


「や、やべーって。生徒会長じゃねえか」


「お、おい。ゲームの音漏れてるって」


「なんで一年生の棟にいるんだよ……!」


 す、すごい。生徒会長が現れた瞬間、みんなが前を向いた。


 これが〈烈火の氷姫〉の力。

 僕はなんて恐ろしい人を敵に回してしまったんだ……。


「今更隠そうとしても無駄だ」


 ただ一言そう言った。


「わかっていると思うが、授業中に携帯ゲームや他人の迷惑になるような騒ぎを起こした場合、連帯責任で罰が下される。偶然私が先生に頼まれて一年の階に来たらこれだ。……正直言って一年一組、貴様らは不愉快だ」


 言い方は厳しいけど、今回は会長の言う通り。自習だからと言って遊んじゃだめだ。


 もう一人奥からメガネの男子が段ボールを持って出てきた。


 あれは確か……副生徒会長の吉宮さんだ。


 矢島さんから聞いた話だけど、生徒会長より話しやすくてイケメンな吉宮君。


 この様に女子たちから言われ、モテモテらしい。


「ほら会長。俺たちも授業に戻るぞ」


「そうだな。まあいい一年一組、処分はまた後日報告する。それまで反省するんだな」


 まるで悪党の台詞のように吐き捨てて言った。


 まあでも今回はこっち側に非があるわけだし、会長にああ言われるのも無理ない。


 でもまさか連帯責任になるとは……。


 先ほどまでお祭り騒ぎしていた男子たちが、今はまるで人形のように固まっていた。


 東井あずまい会長って本当に生徒代表だけなんだよね?

 他に裏でやっていないよね?

 普通あんなに異性を怖がらせることなんて難しいはずなのに。


 それにまだ入学して半年も経っていない一年生があんなに怖がるのなら、上級生にはどれだけ怖がられているのだろう。


 それにしてもよく厳しすぎて学校中から嫌われている生徒が、生徒会長になんて指名されたんだろう。


 僕は少し不思議に思った。

 ただでさえ僕のクラスは三年生のクラスに比べて不利。

 それに加え今日のペナルティで……。


 一体どれだけ自分のクラスにハンデを重ねなきゃいけないんだろう。


 だけど不機嫌なのは僕だけじゃないみたい。


 上野さんもまだ怒っていた。

 いつも僕の目の前で男子の愚痴をこぼしているので、大体その時の表情からわかるようになった。


 前の席にいるから見えずらいけど、たまにこちらを意味もなく振り返るのでそこで確認している。


 上野さんはもちろん、雅ヶ丘さんまで怒っている。


「男子のせいで……私の勉強時間を返せ」


 などと雅ヶ丘さんは呟いていた。

 久しぶりに彼女に恐怖心を抱いた。


 キーンコーンカーンコーン


 それから数分後。すぐに授業終了のチャイムが鳴った。


 会長に怒られたあとの方が早く終わった気がした。

 というか時間の流れが遅く感じた。


 東井会長なぁ……黙っていれば美人なのになんであんな性格なんだろうか。


 よく言えば正義感が強い女の子。

 悪く言うなら偽善者。

 果たして彼女はどちらなのだろうか。


 そんな思いは心に閉まって、次の授業の準備を始めた。


「お前のせいで――」


「お前があんなに騒ぐのがいけないんだろ――」


 一部の男子では内輪もめが始まっちゃったし。


 これがあの学級崩壊と言うのだろうか?


 雅ヶ丘さんや上野さんたちがいて、ああ見えて生徒想いな素晴らしい先生もいるのになんで学級崩壊が起きるのだろうか。


「北川心はいるか」


 次は後ろの扉から僕を呼ぶ声が聞こえた。


「東井会長……な、なんでしょうか?」


「今日の放課後生徒会室に来い。クラスの罰を報告する」


「それなら学級委員長に……」


「何か言ったか?」


「い、いいえ。わかりました」


 なくなく了承すると、会長はそのま

ま氷のように冷たい表情で三年生の棟に帰っていった。

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