スクリーンと僕

@iamnomad

第1話

 なぜ自分はここにいるのか、わからない時がある。

  

 エンドロールが終わりを告げて、暗い箱がパッと明るくなる。この瞬間のためなのだろうか。どんな作品を観ても必ず体感する一瞬が、僕をまたスクリーンの前へと向かわせる。


 「あなたがそこにいたから!」


初めて会った日に見た作品の、最後の台詞。

人気絶頂の女優と、爽やかなイケメンが共演するよくあるラブストーリーだったが、覚えているのはこのラストシーンだけ。後に振り返れば、僕とあの人のためにあるような台詞にも感じる。


 半ば習慣のようになっていた、映画館での月曜日。ハズレだと分かっていながら観た映画の帰り道は、思っていた以上に重かった。家までのお決まりのコースを今日も歩かなければならない。お年玉で買ったイヤホンを耳にはめ、これまたお決まりの「voodoo 」を流そうとした時、いつものレールから車輪が外れた。


「あなたがそこにいたから!」


僕の肩を叩いて、聞き覚えのある台詞をバカにする様に投げかけてきた。ビクッと肩が上がると同時に


「ええっ!!」


と声が出たのも覚えている。これがトムさんとの出会いだった。

 

「トムさん」といってもれっきとした日本人だ。長身ではあるものの、小太りで好きな食べ物はラーメン。顔は山下達郎に少しだけ似ている。そこらへんの日本人よりも日本人だと思う。


「そんなにびっくりするなよ!」

 

「同じ映画を見た友達だろ!」


いきなり他人に軽い暴力と、ものまねされた台詞を聞かされ、若干の恐怖さえ感じていた僕を今度は友達呼ばわりしてきた。


反応に困った僕に、トムさんは続ける。




 

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