第1章 ある逃亡者の話4

エルフの村は古い森の奥深くにある。そして彼らは外界との接触をあまり好まないので村についても入れるかどうかわからない。しかし、それでもいく価値はあった。

 魔導士にとってエルフや妖精に出会うというのは特別な意味を持つ。運よく祝福を貰えばなんらかしらの力が得られることになる。その祝福の中に「時計を狂わす」というものがあるそうだ。時計が狂うとは寿命が伸びたり縮んだり、若者が突然老人になったり、逆に若返ったりすることだ。文字通り、その人の中の時計が狂うということ。時計が狂うことが吉と出るか凶と出るかは誰にもわからない。また、彼らは知恵を授けてくれることもある。それによって一国を築いた歴史に名を残す王もいる。しかし、なんといっても彼らは魔導士たちに流れる魔力そのものの存在に近いモノたちである。それによって彼らになんとなく懐かしさや心地よさを感じることがあるらしい。

 ティーは知恵が欲しかった。逆境に打ち勝つ時に必要な知恵が。そのためエルフの村にいくのだ。

 エルフの国に行くのはなかなか難しいと聞く。まず、エルフの村は古い森の奥深くだ。そして村は彼らの長ハイエルフの魔法で隠されているらしい。普通の旅人が行こうとしても彼らの魔法によって森を彷徨うだけだ。しかも、これからティーが行こうとしている村の場所はかつての師、アルベールから聞いたものだった。つまり、今もそこにあるかはわからない。だが、エルフたちは長寿だ。1000年生きるものもいるという。そして古い森に誰かが立ち入り、何かしらを見つけたというような情報もない。つまり、彼らはまだその村にいる可能性が高いということだ。

 ティーは森の入り口に入る前に身につけている鉄製のものを全て外した。そしてそれらを革製の袋の中に入れる。妖精たちは皆鉄を嫌う。そのため彼らにとって見える位置には鉄製のものを身につけてはいけない。なのでナイフなども鉄製でないものをここからは使用する。今回ティーが用意したものは磨いた黒曜石を加工したナイフだ。

 また、森に住むエルフたちは火を恐れるのでここから先は火を使うことができない。火を使えないのは結構厳しいものだ。煮炊きもできなければ照明として使うこともできない。そしてこの森、メイトランズの森は巨大な樹木が立ち並ぶ森だ。木の根で足元が悪く、その上昼間でも薄暗いとなると明かりは必須だろう。

 ティーは荷物の中からカンテラと布の包みを出した。ティーが布の包みを開けると焔鉱石と呼ばれる、ティーの拳より少し大きい鉱石が出てきた。この焔鉱石は触るとほのかに温かく、そして光を放つ。主に薪や石炭などを節約したい北国の方で使われる者らしい。ティーはそれを事前に手に入れておいたのだ。それをカンテラに入れ準備は万端である。

 荷物を全て背負い直し、ティーは森の中へ入っていった。



〈人物紹介〉

アルベール

かつてはティーの師をしていた。その時はアルベールと名乗っていたが、ティーのもとへ現れる前はエリオットと名乗っていたと本人が言っていた。いくつ名前があるのか不明な、ミステリアスというより圧倒的不審者な男。ティーはそんな彼に若干引きつつも尊敬をしていた。ティーと別れてからは彼も旅をしているらしく、ティーは旅の途中に彼と出会えたらいいなと思っている。


〈その他の紹介〉

時計が狂う

稀に妖精や精霊たちと過ごした人間の時間が狂ってしまうことがある。症例は世界的に見てもあまりいないが、中には少年だった者が妖精たちと遊んでいるうちに帰る頃には老人のような姿になっていたという。


エルフとハイエルフの違い

彼らは似ているようで全くの別物である。ハイエルフはエルフたちの長であるが、ハイエルフはそもそも古い森などから生まれる、エルフたちよりもより精霊に近い存在である。それに対してエルフたちは同族のエルフから生まれる。ハイエルフは通常のエルフたちよりもはるかに膨大な魔力量を有しており、彼らはエルフを加護する。ハイエルフは自身が生まれたもの、たとえば古い森から生まれたのであれば、その森が焼失すると死んでしまう。他にもハイエルフは森から離れることができないがエルフたちは可能であるといったような違いがある。


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幻想異世界譚 夜茶。 @yorucha0410

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