15

光は火の粉のようなものを落としながらも真上で浮いている。

美香は手を伸ばした。

光を掴もうと、そっと光に触れた。

すると、美香は現実に戻った。

手にはカップ、カウンターの上。

どうやら飲んでいるうちに眠っていたようだった。

「お加減はどうですか?」

 闇野は言った。

「あ、はい。……少し不思議な夢を見ました」

「疲れていたんですよ、たまには一息入れる事をお勧めします」

「そうですね」

「それと、何かで苦しい思いをした時は大きく息を吸って空を見るのがとてもいいそうですよ?」

「そうなんですか?あまり聞きませんよ?」

「リラックスが大事ということです」

闇野は穏やかな笑みを美香に送った。



「ご馳走様です。ありがとうございました」

美香はカウンター前の椅子から降りると闇野にそう言った。

「いえいえ、少しでも気休めになれたら幸いです」

「えーっと、おいくらですか?」

「あ、いえ、あれは私からのお気持ちです」

「でも」

「お気になさらずに。お客さんにとってこれが何か変わるきっかけになるのなら」

美香は最後に会釈し、店のドアを開けて出て行った。

カランカラン、とドアベルを鳴らして。

闇野は蝋燭を見る。

すると、さっきまで小さい火を燈していた蝋燭が一気にぼっ、と勢いを増し、燃え始めた。

それはふんわりとした綺麗な橙色を放っていた。

くすり、とう闇野の口が歪んだ。

「貴方のお望みは叶いましたかね」

と、闇野が言うとまた火が小さくなった。

弱弱しくさっきのように今にも消えそうな火である。

再び、ベルが鳴る。

そこには影山と夜谷が二人揃ってやって来ていた。

闇野は言った。

「いらっしゃいませ、お二人さん」



美香は来た細道を逆戻りして元の通りに出た。


喫茶店に行く前と変わらず群集が流れのように行ったり来たりをしている。

美香はその中に自分を飛び込ませた。

最初のような暗い顔はもうない。

美香の顔は生き生きしており、何処かスッキリしている雰囲気だった。

あの喫茶店のことを思いながらもしかするとこれがコーヒーの効果なのかもしれないと美香は思った。





『アゲラタム』の花言葉は信頼、幸せを得る、安楽。

人によって灯りの形はいろいろあります。

その中でも特に灯りの小さい人達を呼び込む力を持っているのがこの喫茶店であり、その人たちに応じてまた新たに灯りを燈すきっかけを作るのが、私の務め。

どうでしたか?

貴方の心に灯りは燈りましたか?





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幸せを呼ぶ喫茶店 時遡 セツナ(トキサカ セツナ) @otukimipanda

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