第26話 不思議でも受け入れたら早い
ゆっくり身体を動かす。昨日のクラクラは治っている。後で素振りしてみよう。
「どうですか?」
「いや、まだ少し怠いかな…と」
「素振りして調子見てみようとか考えてない?」
「は!?」
「……」
「はーーっ、今日は素振りは禁止です、食べたら休むんですよ!」
盛大なため息をつかれてしまった。
エルフィがスープを温め直してくれている。料理風景、いいじゃないか!
「はい、カインド」
深皿によそったスープを受け取り、にこにこしてエルフィを見つめた。
「ニヤニヤしてないで、食べてよ」
頭に軽くペシんと手がのる。
ふーふー冷まして一口食べた。おいしい。
クレアにもカップに入れたスープが配られた。
「クレアちゃん、熱いから気をつけて食べてね。」スプーンを渡されクレアも食べる。
「ふーふー、っ…エルフィ、おいしい!」
何だか久しぶりにクレアの笑顔を見た気がした。一日ぶり?
「エルフィ、ありがとう美味しいよスープ。」
オレはスープを半分食べた。…ん、パン食べたい。
「ねぇ、パン浸して食べたい」
「あ、僕も思いました。少し焼いたのがいいですね」
「私も、焼いたのがいいな。あ、カインドはそのままね」
エルフィは、バッグからフライパンと食パンを取り出し、切り分けると両面を焼いて、テリに渡した。自分の分も焼いて、皿の上に置く。
オレにはなまパンを皿の縁に置いた。パンを千切らずスープにつけながら食べる。スープを吸って柔らかくなったパンが美味しい。
クレアはオレの食べ方を見ていた。
見ていたエルフィが、なまパンを半分にしたものをクレアのカップに浸す。
「カインドと同じ風に食べて」
「うん!…むぐ…ん!やわらかくて、おいしいね」
「良かった、ふふっ」
オレはスープをおかわりして食べた。お肉は最初に2個しか入ってなかった…うー。
数時間ぶりに楽しい雰囲気を取り戻したオレ達だった。
食事を食べたら、また横になるよう言われた。眠くないけどな…。
「ヒール」
自分にヒールをかけた。うーむ、怠い…。
テリは装備の手入れをしている。エルフィは食事のあと片付けをしていた。
あ、クレアは…
探すとすぐに目についた。また遠くをじっと見ているな…テリとエルフィは気づいてないようだ。気配察知をやってみるが、辺りには魔物はいないようだ、安心。
寝床は木陰にある。サラサラと通り抜ける風が気持ちいい。クレアの視線は変わっていない。
…なにを見てる…んだ……
「あ、カインド眠ってしまいましたね」
「寝ちゃった?まだ回復十分じゃないのね。昨日より、顔色良いけど…出発明日でいいかな?」
カインドを覗き込んでエルフィが言う。
「その判断は明日の様子をみてからでいいですよ、出発はいつでもできます。」
「クレア、そばにいる!」
眠ったカインドに気づいたクレアがやってきたようだ。
「うん、傍にいてあげて」
屈んでエルフィがクレアを撫でる。頷いたクレアは踵を返すと眠っているカインドにまたくっ付いてしまった。少しすると、クレアの寝息も聞こえる。
「…そう言えば、造血剤もないのに、カインドの回復が早いと…思っているんですが…クレアが何かやってる?」
「テリもそう思う?よかった、私だけじゃなくて。ほんとに…、何かクレアがやってくれてるのかも…??」
「確信はないんですが」
「そう思ってしまうところがあるのよね~」
微笑ましくも、不思議な雰囲気を持った光景だった。
数時間後にオレは起きた。
え、寝ちゃってたんか…。重い…クレアもいる。
「カインド起きた?水飲めば?」
「あ、貰う。」
眠っているクレアをそっと横に寝かせて、オレは起きて水をゴクゴクと飲んだ。
「調子は戻りましたか?」
「あ、あれ?そういや…」クラクラしないし、怠さも取れている。
「ふうん、ほんとに大丈夫そうね…。」
「カインド、後で素振りしてみていいですよ」
「…うん、そうする…」
オレの回復度合いは素振りで決まるようだね。
「問題なくても、後で薬草飲んでください。明日には出発できそうですね。」
「うん、できそうです…。」
自分の身体の感じを改めて確かめてみる。眠る前には怠かったはずなんだけどな…
「…本当に大丈夫ですか?カインド」
「うん、なんか大丈夫みたい…テリ何かした?」
「いいえ、僕もヒールしかかけてないですよ。…ん~、あえて言うならクレアがくっ付いてたぐらいで…」
「…クレア…」
「不思議よね…私ももう少しかかると思ってたんだけど、あ、またポタージュスープだから食事」
「あ…!貴重なミルクが…」
「なに?問題でも?」
「いいええええ」
「ふぅ、カインド僕も休憩させてください。」
「変わるよ、テリ休んで。エルフィは?」
「ん~、後で休もうかな」
オレが起きたあと、交代でテリが眠ってしまった。
だいぶ心配をおかけしたようだ。テリ、ありがとう。
「…カインド?もう平気?」
「あ、クレア、もう平気だよありがとうね。代わりにテリが寝ちゃった。」
「…テリもつかれてる?」
「そうだね」
「じゃあ、テリも平気にする…」
そう言うと、クレアはテリの腕を掴み眠ってしまった。…クレアさん、何かやってくれているんですな…!?
「エルフィ、テリも平気にしてくれるらしい…」
ボサボサしたままでエルフィにクレアのことを話した。
「ん~、やっぱり何かしら効果があったのね…。クレアちゃんに負担がないといいんだけど…」
「後で聞いてみよう、ねぇ」
「そうして」
「あ、エルフィ」
「何?」
「ごはん美味しかったよ~違うのまた作ってね」
にこにことエルフィを眺めた。
「う、うん」
エルフィさんがちょっと照れた。可愛い、ふふふふふ。
「それはミルクを使い切っていいってことね!」
「それは、ちょっと勘弁してください!オレのメニューに支障が!」
色々あったけど、オレと倖せになりませんか? うさと飴 @usatorein
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。色々あったけど、オレと倖せになりませんか?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます