一通のメール

私は受信ボックスの一番上、最後の未読メールを開く。



流れ作業でタイトルも読まずに開いたメールは、異色だった。



——————

【送信者】

writer anonymous <4n0nym0u5.wi2173i2@gmail.com>


【件名】

この暗号を解読しろ


【本文】

“gift” is hidden in the “garden”

H1NT: "binary editor"


【添付ファイル】1件

garden.jpg

——————



明らかに仕事のメールではない。


そういえば最近、会社で情報セキュリティの教育を受けさせられた。

怪しいメールは開いてはいけないんだったか。

いやでももう開いてしまった。

セキュリティの部署に連絡を入れなきゃいけないかもしれない。

まだ添付ファイルは開いていないから大丈夫か?


ちょっと慌てすぎている。


こういうときは一旦落ち着こう。


深呼吸しよう。



「すー・・・・・・」



「はー・・・・・・」



落ち着いた。

そして気がついた。


自分が焦っているだけではなく、ワクワクもしているということに。

なぜか。


私は考える。


たった一通怪しげなメールを受け取っただけでワクワクした?

いや、迷惑メールや怪しげなメールは今までにも何度か受け取ったことはあるが、特に感情を動かすこともなく処理していたように思う。



「暗号を解読しろ」



この一文のせいだろうか。

そうかもしれない。


今の仕事はつまらないわけではないが、面白さを感じるものでもない。

チャレンジングな仕事が無いのだ。

今の自分ではできないが、知識や経験を増やすことで、もしかしたら達成できるかもしれないような、そんなやりがいのある仕事が無いのだ。

普通は自分で作り出していくものなのかもしれないが、私はそれを行うモチベーションも持ち合わせていなかった。


私はこの添付ファイルを開くことを決めた。


もしかしたらウイルスを送るだけの迷惑メールかもしれない。


しかし、高揚感を覚えてしまった今、このメールをそのまま捨てることはできなかった。

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情報の海を泳げ @qavion

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