64話(最終話)・いつまでも共に

「来月はいよいよ挙式ね」

「ようやくここまで来たな」


 感慨深く言えば、今までの事が走馬灯のように頭の中を駆け巡った。ルーグに出会ったこと。私が泣いて自分の何も出来ないことを打ち明けた時のこと。ルーグが指導を申し出てくれたこと。ノギオンが二人に魔法の銀の輪を授けてくれたこと。今もその銀の輪は二人の腕に輝いている。


「そう言えばノギオンったらどうしたのかしら? あれから音沙汰ないけど」

「向こうで家庭を持つそうだ」

「へ? 向こうってシュガラフ帝国? 誰かと結婚したの?」


 そんな話、聞いていない。私がゲルト国に帰る際、ノギオンも同行することになっていた。ところが出立前になって、女官長のロアナに何やら耳打ちされて気が変わったらしく同行を取りやめたのだ。その理由すら教えてもらってなかった。

 私としては後で合流するのだろうと考えていたし、ゲルト国についてからもノギオンの事だから後で追い掛けてくるだろうと思い込んでいた。


「ロアナがお目出度だったらしい」

「お目出度? ロアナの妊娠とノギオンはどんな関係が? まさか──??」

「彼女の腹の子はノギオンだ。ロアナは出立日まで言うかどうか悩んでいたようだ」

「そうなの。驚いた。ノギオンも水くさいわね」


 言ってくれれば良いのに。と、ふて腐れそうになるとルーグに笑われた。


「ノギオンもおまえには言いにくかったんじゃないか? あいつはおまえのことを父親のような目で見ていたからな」

「そう言うもの?」

「さあな。でも、知らせが来たら勿論、祝福するのだろう?」

「当然よ」


 ルーグは私の言葉に満足しながらもふとため息を漏らした。


「あいつに先を越されてしまったな。俺たちも早く子供の顔を見せて皇帝や陛下を安心させないとな」


 そう言って執務室のソファーに腰掛けたルーグは私を自分の膝の上に乗せた。


「重くない?」

「全然」


 顎を引かれてキスされる。彼との口づけに酔いしれていると、彼の手がお尻の辺りをもぞもぞと動いているのに気がついた。


「あ。なにを?」

「おさわり」

「駄目よ。昼間からは。お預け」


 まさぐる手を止めると「後で覚えていろよ」と、囁かれる。私達には課題がある。私達の間に生まれた子を養子にとアダルハートに望まれていたりするので、ふたり以上は子供を成さないとならなくなった。

 実はアダルハートは皇帝の座を退き、後をルーグに継がせる気でいたらしい。その為、彼らにはしばらくしたらお飾り皇妃から開放するからと言われていた。


 アダルハートとしてはルーグを新皇帝にし、私をその皇妃にと企んでいたみたいだけど、ルーグがそれを蹴った。アダルハートは成人してからはやり病にかかり命は救われたものの、子を成す事が難しい身体になっていたそうだ。フォドラは勿論、その事を知っている。彼女は私が去った後、皇妃に迎えられた。

 だからと言ってシュガラフ帝国やゲルト国の跡継ぎを産む為だけに、ルーグと愛しあいたくはない。


「しばらくあなたとふたりきりの時間を楽しみたい」


 そう呟けば俺も同じ気持ちだという呟きと共に、再び啄むような口づけが繰り返された。





 その後、私達は五人の子宝に恵まれることになる。長男が成人する頃にアダルハートは体調を崩して退位した。その彼は愛妻のフォドラと、晩年は湖水地方の一領主として静かに暮らした。ルーグはアダルハートが次期皇帝に指名したことで皇帝となり、私は再び皇妃の座についた。


 それまでオウロ宮殿は皇帝の宮殿、プラダ宮殿は皇妃の宮殿と分かれていたが、ルーグが皇帝になってからオウロ宮殿は執務の場所となり、プラダ宮殿は私達家族の居城となった。

長男は皇太子となり、次男はゲルト国の王太子となった。三男は宰相の元へ養子に出していたので次期宰相となり、長女は帝国の大貴族の元へ降嫁し、次女はノギオンの息子と結婚して大賢者一家の仲間入りを果たした。

 私はルーグといつまでも共にあり続けた。

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🌹玉瑕王女の愛人志願~婚約解消で嫁ぎ先を失った王女は帝国皇妃になった~ 朝比奈 呈🐣 @Sunlight715

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