魔王です。世界征服という目標を成し遂げたのですが、その後の維持管理で泣きそうです。
荒木シオン
世界を征服したものの……。
おかしい。絶対におかしい。
私たち
「陛下! 陛下! また
――なのに、どうして戦後のほうが人類に
「今度はどうした? またもや保護区を無断で逃げ出したか?」
書類に目を通しながら、
「
割と深刻な問題が発生していた……。
「またか! またなのか?! これで何度目だ!? タラカン! 貴様、ちゃんと
「
「おのれ、勇者め……死後も我らの
勇者、それは
幼少から個人で
ヤツのせいで私たち魔族軍は多大な犠牲を払うことになり、人類は反抗する意志を最後まで捨てなかった……。
当時、勇者さえいなければ各地における魔族軍の
なのに、その出現で全てが
人類は勇者の武力で魔族を
あとはもう、勇者を魔族が
さておき、そんな成功体験がなまじあるせいか、人類は勇者に教えられたことを
原因はハッキリしている。ヤツがもたらした作物が人類の
だから、私たちは北方で育つ作物とそれの正しい栽培法を教えているのだが……、
「ヤツらはなにも聞かないでゲス! ガジャイモが育つなら勇者が与えてくれたサツマイモも育つはずだと、我々を無視するのでゲス!」
これである……。確かにヤツがもたらしたあの芋は優秀な食糧だ。むしろ、ほのかな甘みがある分、ガジャイモよりも
しかし、土地と気候が違えば当然、作物の生育状況も変わってくるわけで……なぜ、そんな簡単なことも分からないのか。はぁ~、人類は
「まぁ、しかし、手を打たぬわけにもいかぬか……。しかたない、タラカン! 関係部署に連絡し、
「了解でゲス! しかし、陛下? どう手を
言葉を
「いけ、そして早急に食糧支援を行え」
再びの指示にタラカンはペコペコと頭を下げ続け、逃げ出すように執務室をあとにした。
はぁ~、分かっている。分かってはいるのだ。
そうした考えが魔族の中に一定数あるというのは……。
しかし、私が人類を根絶やしにできず、あまつさえ北方に保護区域を
そして、その最たるものが
当時、
ヤツがなぜ生まれ、どこから来たのか、私たちは様々な研究を行った。
その結果【勇者】という存在は、この世界の神々が人類を救うために使わした、別世界の存在である、という結論に至ったのだ……。
現人類、その大多数を占める
しかし、それが【勇者】という
――人類を追い込みすぎれば最後、神々が黙ってはいない。
ゆえに人類がどれほど
はぁ~、夢に見た魔族の魔族による魔族のための世界運営とはなんだったのか……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
人類との全面戦争に勝利し、世界を手にして二十五年。
今でも多少の衝突はあるものの、私たち魔族と人類はどうにか
この数十年、色々なことがあった。
いや、しかし……人類とは
その中で最も
生まれてから成体になるまでおよそ二十年、その間に様々な要因で半数の幼体が命を落とす……生存率、低すぎである。
これは私たちからしてみると衝撃的な数字だった。
なぜならゴブリンなど生後半年で成体になり、立派な戦力として運用できたからだ。
人類よ、この生存率と生育速度でよく魔族と戦争をしたものである。はぁ~、やはり人類は
しかし、そんな彼らを私たちは手厚く保護し、今まで存続させてきた。実に偉い!
だというのに――、
「陛下! 陛下! 人類保護区西南で反乱が発生! なお、人類軍の中には【勇者】と思しき存在が確認されております!」
――どうしてこう、私たちの努力を水の泡にするのか。
大慌てで駆け込んできた軍務大臣、オーガ族ガントンの説明によると反乱軍の数は実に五万に上るという。
現人類の人口が四十万であるのを考えると、なかなかの大軍勢である。
これも勇者効果か……。このような事態を
具体的に上げると、勇者の囲い込みである。
勇者と思しき存在が産まれたら、その親を含めた
結果、終生安定した生活と特権階級欲しさにこの数十年で十人もの【勇者】を私たちは手中に収めることに成功した。
たまに【偽勇者】も混じっていたが、今は関係ないので置いておこう……。
さておき、そうした
一体全体、これはどうしたことか? なぜ今回に限って【勇者】がすり抜けた?
考え込んでいるとその悩みが顔に表れていたのだろう、軍務大臣のガントンがおずおずとした様子で捕捉する。
「陛下、恐らく今回の【勇者】は現地で生まれ育った者ではありません。
なるほど異世界から転生させるわけでなく、直接連れてきたか……。私たちの網をすり抜けるわけである。
しかたない……
たった二十五年、短い平和でだった……。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
第二次人魔大戦の開戦から一年。
数で圧倒する私たち魔族軍を、人類軍はものともしない進軍を続けていた。神々から数々の
しかし、それでも私たちがなんとか
彼らの活躍で戦線を維持できていなければ今頃、私たちは大敗の上に大敗を重ね、滅亡していたはずである……。
そうして私たちは今日、人類たちと
我々、魔族は疲れ切ったのだ……
もう、彼らの面倒なんて見たくない……。
だから人類を引き連れ現れた【
「おぉ! 勇者! 世界を半分、
完
魔王です。世界征服という目標を成し遂げたのですが、その後の維持管理で泣きそうです。 荒木シオン @SionSumire
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます