きっと誰もが、なにかに縋って生きている。

「もう戻れないよな。緑でいっぱいのあの山に。」
(作品キャッチコピーより)

まず、この意味深なフレーズが気になった。
作者である飛鳥休暇さんの作品は、タイトルやキャッチコピーからどんな作品か想像がつくものが多い。だが、この作品は珍しく蓋を開けてみるまでわからなかった。

主人公とヒロインのワカは、人口の少ない集落で育った。
そして、四年ぶりに会ったワカの両腕にはびっしりとタトゥーが彫られていた。

その場面を想像し、一瞬ぎょっとする。
なぜ、ワカは両腕にタトゥーを入れたのか。

タトゥーがあると銭湯や温泉に入れないと聞くし、プールや海にも行き辛くなる。
それに、一度彫ってしまうと、消すには施術を受けなくてはならない。
昔よりは気楽に彫れるのかもしれないが、それでもやはり「覚悟が必要な行為」だというイメージがある。

読み進めるうちに、あまりの息苦しさで溺れそうになる。
それはきっと「生きること」に対する息苦しさだ。

まるで刃物のように、おそろしく研ぎ澄まされた作品だ。
ストレスで自殺をしたり自傷をしたりという話をよく耳にするが、この作品は「タトゥー」がそれらの代償行動として描かれている。

おそらく、人の数だけ「縋る」ものがあるのだろう。
人によってはそれが「家族」だったり「恋人」だったり「宗教」だったりする。あるいは「小説」だったり「ゲーム」だったりするのかもしれない。

タイトルの「スティグマ」とは、さまざまな意味を持つ言葉のようだ。
この作品も、いろいろな意味を込めて書かれているように思う。
読み終えたら、ぜひ言葉の意味を調べてみてほしい。

そしてキャッチコピーの意味がわかったとき、彼らの悲しみがいっそう強いものとなり深く心にしみる。

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