92 自分の中で答えが出ていることでも、実際に聞くまではその答えが信じられないこともある



♤hiroaki



 地面が揺れている。

 これは錯覚じゃない。 

 目の前の景色も、隣にいるスノーマンも、同様に揺れている。


 最初から鳴っていたサイレンがさっきよりも大きくなったように思えた。

 いや、もしかしたら錯覚なんかじゃないのかもしれない。


 空を見上げると満点の青空を遮るように大きなゲートが開いている。

 見えはしないけれど、そこには確かに魔力を感じた。



「……奴らは新しい再転生者の存在を感知したからそれを待ってた。それは分かる。だが、おかしいだろ。じゃあ、なんでこんなに地面が揺れてる」



 この揺れは錯覚じゃない。

 後方に積まれたホテルの残骸も、周囲の人間がきちんと伏せていることも、この揺れが事実であることを示している。


 相変わらず、四つん這いの状態のまま、スノーマンの方に顔を向けた。


「そうか。そりゃ知らないよな。僕だって実際に経験するのは初めてだ」

「何の話だ」


 常にこいつは含ませた言い方をする。

 最初の発言だけでは何を言っているかほとんど分からず、会話の後半になってようやくパズルがはまったかのように全てが分かってくるような。


 だが、こいつが含ませた言い方をしたってことは、この地震はじゃない。ゲートと同時にたまたま地震が起きたわけじゃないってことだ。


「一度は疑問に思ったんじゃないのか。なんで転生震度って言うんだろうって。震度っていうもともと存在していた尺度を踏襲したっていえばそれまでだが、震度以外にも尺度はたくさん存在する」


 弾丸がめり込んだ氷壁がゆっくりと溶けていく。

 役目を終えて、少しだけ頼りない姿へと変わっていた。


「わざわざその中でも震度を採用したのには理由がある。というか、理由がなければ全く新しい尺度を作ればいいだけの話だしな。転生危険度とかそういうのでも良かった。ちょっと語呂が悪いかもしれないが」

「……確かに」


 転生震度という言葉に違和感はあった。

 わざわざ過去の尺度を踏襲せず、全く新しい尺度を作るべきだと思ったこともある。


「彼らは、あえて転生って言葉を使ってる。転生歪みによる視界のクラクラが揺れているように錯覚するから、なんて思われてるが実際は違う。転生震度の低い再転生者じゃその存在に気付くこともないだろうが、このレベルだと流石に気付く」


 スノーマンはゲートの方へ目を向ける。

 まだ開いたばかりで、そこからは何者も出てきていない。



、実際に。一定の転生震度を超えた再転生者なら」



 じゃあ、ちょっと前の地震はこの再転生者が来る予兆だったってことなのか。

 頭の中の記憶と今の状況が合致して、なんだかパズルがはまったような感覚に襲われる。

 だが、他の記憶が現在の状況を否定していた。


「お前の言ってることは分かる。けど、それでも納得いかない。おかしいだろ。。これは普通の地震と変わらない。ディルナは転生震度八だったはずだろ? いくら俺が転生酔いになってたからってこのレベルの揺れなら気付く」


 もしかしたら震度七かもしれない。

 そう錯覚してしまうほどの揺れが俺達を襲っていた。

 しかし、ディルナと遭遇した時、揺れていた記憶はない。


「そうだね。勝木紘彰。その感覚は間違ってない。転生震度八ですらほぼ揺れない。だというのにこんなに揺れている。つまり答えは一つだ」


 そろそろ揺れに慣れてきたのか。

 それとも、そもそも揺れていたところで命の危険がないからなのか。


 真偽は定かではなかったが、スノーマンは立ち上がって息を大きく吸い込んだ。


「堀口ッ! 連絡が届いてるだろ。こいつの転生震度はいくつだ!」


 積みあがった瓦礫の隙間から見える人影。

 無線は既に終え、彼女も地震に耐えるために姿勢を低くしていた。


 しかし、表情が冷静ではない。

 ぶつぶつと何か小言を呟いている。 


「……ありえない。なんかのミスなんでしょ」

「おい! 正気を取り戻せ。連絡が届いてるだろ。奴の転生震度はいくつだ」


 スノーマンは放心状態の堀口の方へと歩みを進める。

 低姿勢の人々の間を一人だけ歩き続けるスノーマンはこの瞬間だけ王のようだった。


「転生震度は……」


 転生震度は零から十までの十一段階。

 現状の最高はディルナの八。


 そして、そんなディルナでさえ揺れなかった。

 つまりはそういうことなんだ。けど、その答えを聞くまで確信は出来ない。



『測定不能! 転生震度十です!』


 

 答えは堀口からではなく、設置してあるスピーカーから届いた。

 答えなど分かり切っていた。

 それでも、実際にその言葉を聞くと絶望が頭の中に浮かぶ。


「なあ、転生庁。こいつは吉なのか、凶なのか。どっちなんだ?」


 ため息を吐きながら、スノーマンは転生庁の方を向く。

 答えを聞くまでもない。


 開いたゲートからようやく表れた人型の何かは、再転生者ではない俺から見ても異質だった。





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転生者を匿ったら指名手配犯になりました 壱足壱 葉弐 @Sasakiki

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