まだ、ゴールなんてしてやらない。

多賀 夢(元・みきてぃ)

まだ、ゴールなんてしてやらない。

 自分の人生くらいは、自分の手で終わらせたい。

 初めてそう思ったのはいつだろう。小学校の頃から地獄にいたから、もう覚えていない。


「死ぬ、死ぬ、今日こそ死ぬ」


 震える手でカッターナイフを掴んで、キチキチと刃を長く繰り出していく。

 将来の夢は分かりません。

 将来の展望は分かりません。

 好きな食べ物は分かりません。

 私が食べてよい物が、この世にあると思えません。


「やるんだ、今日は、やるんだ」


 生かされていい意味などありません。

 私は生きていてはいけません。

 私は死んで詫びなければなりません。

 生れてきたことを全世界に全力で詫びて、自分で自分を始末せねばならぬのです。


「勇気を出せ、思いっきりやれ!!」


 毎日自分に言い聞かせて、毎日手首に刃を押し当てて、両親にバレないように息を殺しながら、必死に、一生懸命、切ろうとしているのに。


「切れないよ……怖いよ……」


 いつもカッターを机に置いて、左手を抱いてむせび泣く。

 誰にも気づかれないままひっそりと、だけど心の中は大嵐のように騒がしく。――それが、私の青春時代だった。






 大人になった私は、まず『死なない』事を目標にしている。

「いってー!! 何回打っても痛ってぇ!」

 週1回、腹部への自己注射。そして大量の処方薬。もし注射も薬も切らしたら、1週間で関節が痛み出し、おそらく1か月で歩行困難になる。場合によっては、血管が硬化して穴が開き、死に至る。


 注射の痛みに半泣きになりつつ、毎回心の中で叫ぶ。

「誰が死んでやるかクソが!」


 成人までのストレスが物凄かったからか、私は治らない大病を2つも抱えている。原因はもう目星がついているが、今さら恨むつもりはない。恨んだところで過去は戻らないし、やれなかった色々は今からでもやりゃあいい事だ。

 昔はこんな風に思えなかった。大学を卒業したら、人生は終わりだと思い込んでいた。実際、私に用意されていたレールはそうだった。


 だけど、今は人生がまだ始まっていないとすら思う。

 私はまだ、本気で全力を出していない。

 どうせいつか死ぬのなら、全力で何かを成し遂げてからじゃないと嫌だ。


 その成し遂げたい事の一つが、『小説』だ。私は尊敬する太宰治の『人間失格』ように、地獄の底から小さな光を見出すような作品が書きたい。

 私と同じような人生を歩み、自分で人生にピリオドを打ってしまった友人が何人かいる。打ちそうになっている友人もいる。

 だけど、ストレートな言葉じゃ伝わらなかった。ならば物語にするしかない、少しでも心に届くなら、手段はいくらでも尽くす。


 私は自己犠牲が激しい性格だ。

 自分がボロボロであったとしても、出せる限りの力は出したい。


 親にも同級生にも、「死ねばいいのに」と言われた。

 自己犠牲の激しい私は、言葉通りに死んであげようと思っていた。

 だけど今は、虎視眈々と反撃の隙を狙っている。

 同じ牙を相手に向けるのではなく、今死にたくなっているかも知れない当時の誰かに、物語でエールを送ってやりたい。私だと知られずに。


 小説が仕上がっても、きっとそれはゴールではない。次の手段へ跳躍するただのステップ。私のゴールは、必死で伸ばしてきたこの寿命が尽きた時。


 将来の夢は分かりません。

 将来の展望は分かりません。

 好きな食べ物は文旦です。

 好きな飲み物は日本酒です。


 生かされていい意味など考えるだけ無駄です。

 私は生まれたから生きています。

 誰が死んでやるかクソが。

 生まれてからの事を全世界に全力で訴えて、誰か一人にでも分からせるつもりです。

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まだ、ゴールなんてしてやらない。 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki

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