ソロバン
琉水 魅希
第1話(最終話) 三上大夢は早く帰りたい。
とある学校の校舎裏で対峙している二人の男。
風吹き荒れ土埃と木の葉が二人の周囲を舞っている。
二人は互いに動き始めるのを待っている。
片方の男が口を開いた。均衡を破る程のものではないけれど、この二人の関係を物語るには丁度良い説明となる。
「この学校に番長は二人も必要ない。表の番長と裏の番長、ここらで統一しようや。」
「そうだな。だいたい表とか裏とか意味わからないし、番長統一して【ソロ番】に統一って事で良いな。というか早く帰りたい。」
最初に話したのは表の番長
「IWGP世界ヘビー級のベルトみたいに言うなっ」
飯伏がベルトを統一して今度防衛戦をやるからそれに影響されたのだろう。
真田の番長っぷりといえば、倒した相手を恥ずかし固めにして背中を足で抑えて記念写真を撮影する事で他校には恐れられている。
詳しくは「SANADA 恥ずかし固め」で検索すると出るんじゃないだろうか、田口が餌食になってる動画がアップされている。
真田曰く、同じ苗字だからリスペクトしていると言う。
一方三上の番長っぷりといえば、特に何もない。
毎日放課後を知らせるチャイムが鳴ると颯爽と家に帰ってしまうからだ。
ではなぜ裏の番長などと呼ばれるかと言うと、家まで一直線で帰りたいのに邪魔をする奴を返り討ちにしていたら周囲から勝手に恐れられていたという寸法だ。
その返り討ちにあった中には周囲でかなりのワルと呼ばれていた者達が何人もいたらしい。
返り討ちにあった者達は真田を呼び出すために、同じ学校の制服を来た生徒をちょっとシメて、お小遣い稼ぎをしてから呼ばせる心算だったようだけど、その時は聞こうとした相手が悪かった。
モブのようなモヤシとまではいかないまでも、いかにも普通ですという感じの三上にあっさりとボコられてしまったのだから。
そして偶然は重なり同じ要領で不良達を何人も倒してついたあだ名が裏番である。
しかし真田と三上の勝負は始まってしまえば一瞬の事だった。
フライングネックブリーカードロップ一発で真田は沈んだ。
三上は早く家に帰りたかったのだ。
早く帰って家でやらなければならない事がある。
「じゃぁな。この学校に番長は俺一人だ。今日からはソロ番だ!もう何人たりとも俺の帰宅を邪魔する事は赦さない。」
風に誘われてやってきたデリ〇ルのチラシが、地面に背を付け未だに立ち上がれない真田の顔に張り付いた。
☆ ☆ ☆
三上は帰宅するなり制服を脱ぎ、整えるとハンガーにかけた。
手を洗い自室に籠るとパソコンを起動した。
この家に三上本人以外誰もいない。
夜になっても誰かが帰ってくることはない。
一人なのだ、ピンなのだ、ソロなのだ。
親からの仕送り(小遣い含む)のみで一人暮らしをしている。
三上から学生という肩書を取り去れば他に残るは自宅警備員、またの名を家の番人。
一人で番をするからソロ番である。
そして、今日は月末。月の小遣いが尽きる前に計算をする必要があった。
円盤を買ったり本を買ったりで財布は心許ない状態となっている。
領収書と家計簿(お小遣い帳として使用)とソロバン(電卓はない)を用いて計算をする。
三上はソロ番(番長)でソロ番(自宅警備)をしながらソロバンを弾く。
「さて、三つのソロ番を統一しますか……」
「あ……統一も何もソロの称号は全部俺自身の事だ。流石一人、流石ぼっち、ソロ活動は人に気を使わなくて良いから楽だ。」
「自宅警備員最高!ビバソロ生活!友人や彼女がいるとお金も無駄に出ていくし。」
「俺には画面の中の彼女達が居ればそれで良い!」
それはソロと呼べるのだろうか。画面の中の彼女達に刺されなければ良いが……
ソロバンで算出された今月の残金は新たな画面の中の彼女を増やすにはお金は足りていなかった。
「あーちくせう。あの時の昼飯もう少しケチっておくんだった。」
バンっとテーブルを叩いた。その衝撃と同時に停電が起きる。
パソコンの画面も落ちてしまう。UPSなんてついていない、停電と同時に電源は落ちて画面は真っ暗になる。
やがて停電は復旧しパソコンを立ち上げるが……
パソコン内部に存在していた彼女達のデータは全てお亡くなりになっていた。
「おーのーあの子もこの子もいなくなってしまった!」
画面の中の彼女達が旅に出た事で本当のソロになった三上。
攻略に時間を要していたために、一瞬で沈んでこの世の終わりみたいな顔となる。
「あぁもうこのまま椅子になりたい……」
三上のソロ人生はまだ始まったばかり。
これで四つ目のソロの称号を得た三上だった。この先いくつのソロ称号を得るのだろうか。
ソロ神の作者ですらわからない。
ソロバン 琉水 魅希 @mikirun14
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