LOVE SOLO LIFE
hitori
第1話
野草に興味を持つサトルは、次の日曜日に東峰山に探索に行こうと考えていた。東峰山には希少な野草の群生地がある。ワクワクする気持ちでリュックを用意していると、タケシから電話が入った。
「明日、みんなでバーベキューしようぜ。ミノルやコウタもくるぜ。それにナオトが休暇で戻ってきてるから誘っといた。10時に迎えに行くよ」
一方的に喋っているタケシ。
「ちょっと待って。僕、明日は予定があるんだ。悪いけど参加できない」
「おい、お前つき合いが悪いな。ナオトが来るんだぞ。北海道から戻ってきてるんだ。次はいつ帰ってくるかわからないじゃないか。予定って何なんだ?ナオトより大事なものなのか?」
「山に花を見に行くんだ」
草花に興味のないタケシにはわからないだろうな、そう思いながらサトルは行けない理由を話した。
「花?花なら来年も咲くだろうし、一週間先でも間に合うんじゃないか。いいから来いよ。10時に迎えに行く。花より、友だちに決まってるじゃないか」
電話は切られた。花より友だちなのか。友だちが遠くにいるなら、会いにだって行けるのに、戻って来たら必ずみんなで会わないといけないのだろうか。ナオトは夕方、夜にはもういないのだろうか?タケシの強引さにはいら立ちを覚えてしまう。
サトルはナオトに電話をかけた。
「今、戻ってきてるんだって?いつまでいるの?」
「あまりゆっくりできなくて、明日の夕方の飛行機に乗るんだ。それで、タケシが急にバーベキューしようって言い出したんだ」
「そうだったんだ」
サトルはナオトの声を聞くと、参加できないって言いそびれてしまった。結局、サトルはバーベキューに参加した。でも、野草のことが気になって、心から楽しむことができなかった。
サトルは一人で行く山歩きが好きだ。小鳥の声を聞き、湧き水に触れ、ゴツゴツとした岩を触る。風に吹かれながら景色を眺め、野草に手を伸ばす。普段、感じるいろいろなことに思いをはせ、自分の器の小ささを感じる大切なひと時だった。
山の中でひっそりと小さく咲く野草を、サトルはとても好きだった。先日、東峰山で希少な野草が見つかったと聞いて、この目で見たくてたまらなかった。
翌週は荒れた天気になり、雨が続いた。
「東峰山では地滑りが発生し、麓の民家に避難命令が出されています。地滑りの発生した場所は、希少な野草が見つかった地域で、植物学者の木島教授は心配しているとコメントが届いています」
ニュースで伝えられた言葉にサトルは呆然としてしまった。自分にとって大切な野草。残っていることを願うばかりだ。もし残っていなかったら、来年は見ることができなかったら、自分は行かなかったことを後悔するだろう。なぜ、誘いを断ることができなかったのか、そこに自分の弱さがあるんじゃないか。サトルはそう思えた。
サトルはその日の日記にこう書いた。
一人でいる時間を愛さなければ、人は成長しないし、科学の発展も、素晴らしい芸術もない。
人は多くの物を見て、知識や経験を得るけれど、それらを消化し知恵に変えるためにはソロタイムが必要。もし大勢の中で考えるなら、周りの意見に流されてしまうかもしれない。自分の目的や善悪の基準が曇らされた状態での考えは、いずれ修正されなければならなくなる。みんなが言っている常識なんて、絶えず変化するもの。そして、一人ひとり違うものが常識という名で歩いている。
本当に自分を愛したいなら、自分を知らなければならないけれど、それは大勢の中ではできない。周りの反応ばかりに気をとられてしまうから。
自分が求めているものが何か、それが見えていないなら、進むべき道がわからない。だから必要な友が見つからないかもしれないし、たとえいたとしても、助言は「馬の耳に念仏」になってしまうかもしれない。
僕は自分の気持ち考えを大切にしたい。
LOVE SOLO LIFE hitori @hitori-corona
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます